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「リシュリウの時といい、こういう呼び出し方が最近の流行りなのか?」


 座標データが指す地点へ赴いてみれば、そこには次の座標を示したデータ。

 俺のスマホにのみ反応する発信機を介した自動転送。


 そんな応酬が既に八回。

 未だ終着は窺えず。正味だいぶ飽きた。


「ったく、回りくどい。嫌がらせかよ」

「嫌がらせでしょうね」


 にしたって念が入り過ぎてる。昨日今日の仕込みでないことは瞭然。

 一体いつから……未来予知能力者を相手に考察したところで無意味か。






「ねぇ月彦」

「ン」


 ミドルクラス以下のナマクラでは、一割ヒトツキ分の『呪胎告知』にも耐えられない。

 故に媒体用として貸し与えた樹鉄刀、長く柔らかな薄刃を持つ曲式に呪詛を注ぎつつ、リゼが横目で俺を見る。


「あのロボ子。フェリパ・フェレスと同じスキルを持ってるのよね?」

「ああ」


 名を『スクルドの眼差し』。

 尤も、こいつは邦名だが。


「未来技術で造られたアンドロイドが、それを伝えた張本人と同じスキルを……なんて、偶然と考えるには出来過ぎな気がするんだけど」


 限りある命。即ち己の未来と引き換えに、世界の未来を識るチカラ。

 ランダム式、それもあらゆる異能が一緒くたとなった混在系オールランダムのスキルペーパーからしか引き当てられない代物。


 同じランダム式限定でも『双血』や『呪胎告知』とは確率が天地ほど違う。

 事実、コスタリカの聖女フェリパ・フェレス以外に、そのスキルをスロットへと宿した者は一人も居ない。


 唯一の例外、半ば裏技に等しい存在であるu-aを除いて。


「あー。奴さんが人造のボディに魂を抱えてる理由は知ってたか?」

「初めて会った時、本人から聞いたわ」


 アンタも居たでしょうが、と苦言を呈される。

 そうだったっけか。


「……まあいい。承知の通りu-aに魂があるのは、アイツを構成するパーツにが含まれてるからだ」


 細かい理屈は俺も知らんが、ざっくり言ってしまえば、つむぎちゃんがスロットを宿したのと同じ経緯。


 臓器移植に伴う魂魄の一部移譲。通常は新たな肉体に馴染む過程で掻き消える儚い残留思念。

 しかし定着先が魂を持たない人造物だったことで、それは崩れることなく留まった。


 そこにスロットも混ざり込んでいた、というカラクリ。


「現行のスロット移植手術では不可能な、スキルそのものの継承。技術として確立されるのは、本来あと五十年近く先らしいな」

「……じゃあ、つまり」


 告げんとする結論に思い至ったのか、リゼが眉間に皺を寄せる。


「u-aの右手と子宮は、フェリパ・フェレスの遺体なのさ」


 いやはや。の意思を受けての所業とは聞いているが、ナントカ博士も中々に豪気だ。


 何せ一般的な社会通念に当て嵌めれば、完全に人体実験。

 延いてフェリパは、死後バチカンで列聖を受けた正真正銘の聖人。

 その遺体を切り分けたなど、もし事実が明るみに出たら殺し屋を差し向けられかねん。


「シンギュラリティ・ガールズの設計図を明かせない事情のひとつってワケだ」

「めんどくさい話ね」


 全く以て。





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