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重く、疾く、鋭く、緩く、縦横無尽。
無韻、不規則、複雑怪奇、かつ盤石。
「真に秀でた技は魔法と並ぶ……どこで聞いたフレーズかは忘れたが、まさしくだな」
柔と剛。
動と静。
攻と防。
東と西。
古と今。
正と邪。
貴賤一切問わず、遍く術理を窮極まで修め果せた、極点の剣技。
「『畜生道』ハガネ。又の名を『
よろずの剣、その総てが彼女に帰結するという意味合いを篭められた通称。
成程。相応しい称号だ。
──否。
ほんの数秒前まで、相応しい称号だった。
「奪い尽くしたぞ。てめぇの
「はっ……はーっ……はーっ……」
片膝ついたハガネを見下ろし、血肉がこびりついた番式の鋸刃を払う。
「流石に神経すり減らしたがな。あー死ぬかと思った」
完全索敵領域に捉えて尚、述べ四度の『深度・参』を経て尚、ここまで梃子摺るとは。
今こうやって生きてる確率とか、軽くコンマ数パーセント未満だった筈。
まあ折々で強敵認定した相手との戦闘なんて大体こんなケースばっかりだが。爆笑。
「……はっ……はぁ……疲れた」
血塗れの姿で息を整えながら、ぼそりと呟くハガネ。
正直なところ、俄かに信じ難い。
前回小競り合った時点で凡そ理解してたが……この女、やはり純粋な身体能力は素の俺の半分未満だ。
ことスタミナに至っては、抱き締めたら不安になるレベルで細身なリゼより劣る。まあアイツはアイツでフルマラソンを二時間ちょいで走り切れるくらいにはタフなんだが。
額面通りな事実として、技術のみで生態系の最上位に君臨するバケモノ。
各種能力のレーダーチャートを作れば、さぞ歪な形の図となるだろう。
「……ぅるる」
更に加えること、一点。
こっちに関しちゃ、流石に勘違いを疑った。
が。奴の剣技を余さず咀嚼し、己がものとした今の俺なら、縦しんば『双血』を使わずとも難度九ダンジョンボスすら殺せる。
即ち、逆説的、他に考えられん。
「なァ」
双剣の背同士を擦り合わせ、問う。
「お前。スキルをひとつも、一度たりとも使ってねぇだろ」
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