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「ちぃッッ!」
半ば反射でアラクネの糸を引き絞り、断面を合わす。
間髪容れず低く踏み込み、再び刀を振るわんとしたハガネに肉薄。
籠手を帯びた掌底で以て、刃先を押し留める。
…………。
今度は、斬られていない。
「もう仕組みに気付いたの?」
ごきり、と首を鳴らしながらの問い。
コンマ三秒。ひとまず考察は纏まった。
「斬撃の跳躍だな」
「名答」
飛ぶ斬撃ならぬ、跳ぶ斬撃。
点Aで放った太刀筋を、点Bへと帰着させた一刀。
ただし空間転移の類ではない。
齎される結果が近いというだけで、リゼのチカラとは本質的な部分で異なる。
敢えて当て嵌めるなら、寧ろ『ウルドの愛人』と同じカテゴリ。
「ちっちっ」
カラクリの真髄は、恐らく事象の上塗り。
既に起きた、既に終わった出来事に対する、強引な書き換え。
分かり易く述べるなら、いざ放たれてしまえば防御も回避も不可能な必中攻撃ってワケだ。
「お巫山戯が過ぎるぜ」
道理に叛いた、およそ刀一本に篭められるような代物ではない機能。
故にこその生体兵装か。大方、素材となったクリーチャーが持つ魔法ごと組み込む形で加工したのだろう。
果心め、妙なもんばかり作りやがって。そんな技術、聞いたことねぇぞ。
──しかし、だ。
「厄介さ共々に、対処法も把握した」
とどのつまり。
「一刀を振るい終えた前提ありき、なんだろ?」
「またまた名答。ああ苛立たしい」
人でも物でも地形でも空気でも、何かを斬ったという事実を基点とした現象。
即ち、剣戟自体を止めてしまえば、単なる刀に等しい。
「ハハッハァ」
徹底的なインファイトで攻め続け、刀を振り抜く暇すら与えない。
そうして億の刃を余さず捌き、億とんで一を、此方が先に叩き込む。
脳裏に浮かんだ勝ち筋。難易度マストダイ、てとこか。
相手は完全に目を覚ましたハガネ。一筋縄では行くまい。
次、太刀を受ければ──アラクネの粘糸ごと、首を刎ね落とされるだろう。
「燃えるね」
可否を知らしめるかの如く、御丁寧に一本だけ断たれた糸を繋ぎ直す。
耳元で小煩く鳴り渡る、濃密な死の足音。
最高にスリリングだ。大ウケ。
「『番式・龍顎』」
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