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 肉体が限界を迎える寸前で『豪血』を解く。


 尚この場合の限界とは、原形を留めていられる、という枕詞が付いたものを指す。

 遵ってダメージ自体は中々に甚大だ。短スパンで二度目の発動だし。


「骨も肉も、いちいち軋みやがる。なんてザマだ」


 手中で震える、焦げ付くような排熱音。

 燻る白煙、赤熱した鞘、纏わりつく陽炎。女隷の長手袋越しに掴んでいなければ掌が炭と化すだろうオーバーヒート。


「……ま、最初に『深度・参』を使った時は何日かマトモに動けなかったからな。それと比べりゃ随分マシか」


 程なく最低限の冷却が終わり、核式へと戻る樹鉄刀。

 未だパンケーキが焼けるくらいの熱は孕んでいるも、取り立てて運用に問題は無い。

 もし泣き言を吐くようなら、今一度立場を分からせてやるまで。


「と。心臓停めたままだった」


 糸の拘束を緩め、胸部に拳を叩き付ける。

 再び鼓動を打ち始めたことを確認し、背後のハガネを振り返った。


「あーらら」


 見事な真っ二つ状態の長刀。

 あの脆弱極まる刀身が砕けず折れた時点で、鞘式の斬れ味と向こうさんの技量を改めて窺える。


「それはそれとして果心がブチ切れそうだ」


 ともあれ、居合い勝負は我が方に軍配。

 しかしこういう場面に於いて、達成感や優越感よりも一抹の寂しさを覚えるのは参る。

 強敵との迫り合いほど、終わってしまえば空虚なものだ。


「つまんねぇ。つまんねぇなァ、オイ」


 刻々とが目減りする。

 目を皿に地平を見渡せど、切っ尖を傾けるに足る相手が見付からなくなり始めている。


 勘弁してくれ。俺は最強無敵になりたいワケでも、雑魚を踏み潰して悦に浸りたいワケでもないんだ。

 刺激を、スリルを、勝負を、脳味噌が蕩けるくらいに味わい尽くして死にたいんだよ。


「……だから、頼むぜ」


 背を向けたまま立ち尽くすハガネに、乞う。

 いい加減、


「ボチボチ本気、見せてくれよ」





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