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 四色の『双血』を解く。

 悲鳴めいた軋みを上げる呪縛式も、核式へと戻す。


「ごぼっ」


 目耳鼻口の七孔、延いて全身の傷より噴き出す、リットル単位の血。

 人に過ぎた力を振るった代償と呼ぶべき揺り返しが、肉体と魂を抉る。


「あァくそ鬱陶しい」


 四散寸前の骨肉をアラクネの粘糸で繋ぎ合わせ、出血を止める。

 俺を中心に放射状の軌跡を描いた血痕が、見る見る青く染まって行く。


 ……全く以て酷いザマだ。

 目算通り、前回よりも着実に持続時間は伸びてるものの、根源的な強度不足を思い知らされた。


 正味、やろうと思えばことも可能だが、精神以外の何もかもが弾け飛ぶだろう。


 いよいよ俺の才気に身体が、容れ物が追い付けなくなっている。

 どこまで突き詰めようと、所詮は基礎設計が人間であるがゆえの限界か。


「手を打たねぇとな。この程度で天井なんざ御免被る」


 ま、そこら辺は追々考えるとして。


「月彦っ」


 小走りで駆け寄って来たリゼを抱き止める。

 済まなかったな。格好悪いとこ見せちまって。


「──ふふ」


 と。


「なかが、よろしいの、ですね」


 手中に掴んだままの首が、なんてことはないとばかり、喋り始めた。


「な……こいつ、まだ……!?」

「落ち着け」


 咄嗟、肩を強張らせたリゼを宥める。

 首を放り投げ、未だ悠然と佇む、胴体の足元に転がした。


「馬鹿にしてくれたもんだぜ」


 ついでに言うなら、ほんの数秒前まで気付かなかった己の節穴さ加減にもな。


「あれは、人形だ」


 掌に残った陶器の欠片を、指先で擦り砕いた。





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