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 摂理の外へ踏み越えるに至った、時間と空間の整合性すら瓦解させる身体能力。

 本来であれば敵意のみに対する筈が、二段階の深度上昇を受け、敵意どころか意思すら持たない惑星ほしをも捻じ切り始めた『呪血』。


 平常時なら塵も残らんだろう負荷は『鉄血』で耐え、栓を抜いたバスタブ同然な血の消耗は『錬血』で賄う。

 血を造るにあたり必要な水分は樹鉄刀の内在エネルギーで代替し、枯渇を防ぐ。


 要は蓄えた熱量が尽きるか俺自身が壊れ果てるまで、最大最高出力での継戦が可能。

 前回は十万分の一秒で限界だったが、更に練磨された今なら千分の一秒は保つ。


 自滅が先か、世界滅亡が先かのチキンレース。

 つーか既に上空のオゾン層と海底の太平洋プレートがイカレそうだ。


「脆いもんだな。地球ってのは」


 天地崩壊、及び狂いかけた自転を『ウルドの愛人』で正常に差し替えつつ、前に出た。


 先頃に『豪血』単体で『深度・参』を用いた際は、当たり前のように剣で応じたリシュリウだが……此度は動かない。

 否。五体を捻じられ、動けない。


 そしてリゼの呪詛で塗り固めた呪縛式なら、奴への攻撃も余さず届く。


「今度こそ、幕だ」


 首を捥ぎ取る。熟れたリンゴより柔い。

 握り潰すべく、高々と掲げる。






 そこで、ようやっと。

 互する領域の力を携え、直に触れて初めて。決定的な違和を拾った。


「──なんだ、こりゃあ」





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