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呪詛が樹鉄と混ざり合う。
タール状に変容し、音を立てて膨れ上がり、乱暴に形を作る。
木材とも鋼材とも異なる有機的な質感。纏刀赫夜をふた回り凌ぐ巨躯。
人間と狼を掛け合わせたような、謂わば人狼と称すべきシルエット。
樹鉄刀第八形態『呪縛式・理世』。
全形態の中で最も凶暴かつ、最も出力の高い姿。
ちなみに果心が定めた名は『呪縛式・
そう呼んだことは、生憎と一度も無いが。
閑話休題。
「あァ?」
乱杭歯を想起させる無数の刃が、五体の其処彼処を刺し貫き、骨肉を食む。
使うや否や、この始末。俺がくたばりそうだからと叛旗を翻したワケだ。
「……今、機嫌が悪りィんだよ」
アラクネの糸で自らを操り、どうにか寝起きしてる有様なら、上下関係を返せるとでも夢想したか。
見通しが甘過ぎる。所詮は道具の分際で、増長も甚だしい。
「なあ。死ぬか?」
体内を掻き回す刃の動きが止まった。
幾許か間を置いた後、薄ら震え、引き戻って行く。
学習能力の無い玩具め。逆らったところで惨めな思いをするだけだと、まだ分からんのか。
「ふうぅぅ」
にしても血が足りん。
樹鉄刀の内在エネルギーを奪い、血管に流したが、重篤な貧血状態であることは同じ。
しかし、増血薬は先程飲んだばかり。
残る補充手段は『錬血』だが、あれ単体を使ったところで睡魔に支配されるのがオチ。
第一、現状のコンディションでは、血が充ちる前に乾涸びて死ぬ。
「如何したもんか」
……なんてな。
採るべき道筋など、最初から分かってるだろうに。
「豪血」
「鉄血」
「呪血」
「錬血」
呪縛式を纏った時のみ能う、四色並行での『双血』発動。
軽くはない『呪血』と『錬血』のデメリット全てを、取り込んだエネルギーと身体能力と肉体強度で塗り潰し、甚大な消耗と引き換えに、莫大な出力を得る闘法。
「うぅぅるるるるるるるる」
…………。
俺は今、猛烈に機嫌が悪い。
此れ迄の人生を遡っても、指折りに機嫌が悪い。
「自分自身に、腹が立つ」
リゼに無様を晒した。
心配かけた挙句、泣きそうな顔をさせた。
およそ看過し難い愚行。
例え何があろうと俺は、あいつの前でだけは格好つけなければならないと言うのに。
故。
「リシュリウ・ラベル」
お前を縊り、せめて少しでも、帳尻を合わせる。
「──『深度・参』──」
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