577・Rize






 東洋龍を模った、風の属性エレメンタル

 荒ぶり逆巻く螺旋が月彦を呑み、私の傍らへと運ぶ。


「げほっ、ごほっごほっ!」


 精細を欠き、弾け飛ぶ龍。

 自立も儘ならない身で強硬にスキルを使った反動か、激しく咳き込む梅唯。

 再び倒れ、心底忌々しげにリシュリウ・ラベルを睨んだ。


「……いがい、ですね。あなたが、このこたち、の、みかたを、するなんて」

「ぐ、グっ……誰が、日本人にナど」


 吐血混じりの咳と併せての悪態。

 次いで「こいツ等以上に貴様が気に食ワんだけだ」と続けた。


「ひどい、いいぐさ。せっかく、しょうたい、して、さしあげた、のに」

「元ヨり、私にモ利があったかラこそ乗ったニ過ぎん」

「でしょうね。こちらとしましても、あなたの、しゅうたいは、よい、よきょうでした」


 慇懃なれど徹頭徹尾、下に見た物言い。

 成程。これは確かに、気に食わない。


 そして依然──状況は全く好転していない。


「けっこう。はねる、くびが、ふたつ、だろうと、みっつ、だろうと、かわりませんよ」


 こっちは半死半生の月彦と、武器を失くした私。ついでに疲労困憊の梅唯。

 対し、向こうは脇腹に風通しの良い穴が空き、片手も折れ曲がってるとは言え、まるで堪えた様子が無い。

 趨勢の風向きは、明白。


「ッ」


 苦し紛れ、臨月呪母を手元に喚ぶも、思わず顔を顰めるほどボロボロ。

 とても戦闘には耐えられないと、ひと目で理解させられた。


「樹鉄刀を使うしか……けど」


 不調なのか、あっちが何かしたのか、言うことを聞かない。

 私の技は、いずれも緻密な制御を要する。こんな状態の樹鉄刀を媒体に使えば、暴発を起こすのが関の山。


「……詰み、ね」


 静かにを悟る。

 でも。思っていたほどの恐怖は感じなかった。


「ここまでみたい。私達」


 月彦の頬を、そっと撫でる。


 元を辿れば九分九厘コイツの所為だけど、特に恨み言は無い。後悔も無い。

 こいつと過ごした一年余は、それまでの人生を霞ませるくらい楽しかったし。

 だから、別に構わない。


 もしも何か、心残りがあるとすれば。


「一度くらい抱きなさいよ。ばか」


 真黒の切っ尖が、突き付けられる。


「わかれは、すみました、か?」

「……必要無いわ。どうせ二人とも、行き先は地獄おなじなんだから」

「なるほど」


 ひどく緩やかな横薙ぎ一閃。

 しっかりと追えてるのに、回避や防御のタイミングが掴めない、不可思議な太刀筋。


 まあ、どの道これを躱したところで、伸びる寿命は良くて数秒。

 徒に長く痛い目を見るのは嫌だし、ただ従容と待つ。


 ──だけど。その瞬間が訪れることは、無かった。





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