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「月彦ー、お腹すいたー」


 そこら辺に大鎌を投げ捨て、だらだら歩み寄って来るリゼ。


 傷は無い。目立った疲労の色も。

 一応これでも一桁シングルランカー同士の衝突だったのだが、随分と一方的な展開に終わったものだな。


 とは言え、Dランキングは単純な強さ以外の評価項目も多い。

 なんなら国の機関に所属し、ダンジョン攻略を通じ国際社会へ貢献している人間こそが上位を得やすい構造。

 中国迷宮軍のエース・オブ・エースであり、対カタストロフ戦力として何度も海外に派遣された経歴を持つウェイ一桁シングルランカーの座に居るのは、極めて妥当な結果と評せよう。


 …………。

 今期の一桁シングル、九人中六人がフリーランスだけどな。

 しかもヒルダとかハガネとか、基本的に人格面アレな奴ばかり。


「つーきーひーこー」


 ええい、分かった分かった。


「何が欲しいんだ」

「おしるこ」


 また微妙に用意が面倒なものを。






「あーあー。完全に流されちまってる」


 座布団の上に正座し、椀を傾けるリゼを尻目、水平線を見渡す。

 お前ホント、食い方は綺麗だよな。躾けてくれた親御さんに感謝しろよ。


「ま、なるようになるか」


 吉田のアホも去年の今頃、太平洋を一週間ばかり漂流した後、ペルーに流れ着いたとか言ってたし。

 存在がギャグに等しいアイツを引き合いに出しても、全く参考にならん気もするが。


「おかわり」


 はい。






 七杯目で満足したリゼが伸びをする傍ら、座布団と膳を片付ける。


 さて。


「俺ァ何しようとしてたんだったか」

「シージャック」


 テロリストかよ。

 まあいい。それなら早速、機関室か管制室あたりを占拠──


「えい」






 気の抜けるような声。

 それを耳にし漸く、完全索敵領域の網が、を捉えた。


「────」


 肌も髪も衣服も白い、ひたすらに真っ白な輪郭。

 手にした細身の剣だけが漆黒を彩った、どこか怖気を掻き立てる色調。


 ……否。

 そんなことは、どうでもいい。


「まず、いっぴき」


 ただひとつの事象だけが、脳髄を埋め尽くす。

 刹那の間、息すら忘れ、その光景を見遣る。






 背後からの刃に胸を突き貫かれた、リゼの姿を。





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