561・Rize
「どうも私、世間だと直接の戦闘能力は控えめみたいに思われてる節があるのよね」
心外。
「公開戦闘ログの殆どで前衛を月彦に任せきりだから、かしら」
大鎌とナイフを使い分けるスタイル。
六つのスキルを多角的に併用した、無数の手札。
柔軟性なら世界最高峰の身体を、三重皮膜のスライムスーツで覆ったフィジカル。
「アイツの影に隠れてるだけの女が、高難度ダンジョンを練り歩けるワケないのに」
それら全てを過不足なく十全に扱える技巧。
「半年以上かけて、漸く『ベルダンディーの後押し』も心身に馴染んだし」
八方のシチュエーションに即時対応可能なオールラウンダー。
ネックだった超高速戦闘も、体感時間の加速が能うレベルまでスキル練度を上げて適応済み。
現状、具体的に如何程の力量かと言えば。
「私。今この瞬間の『深度・弐』までの月彦なら封殺出来るくらいには強いのよ?」
そもそもアイツには私に手を上げるって発想自体、頭の中に無いけど。
精々、夜食に添えるココアをシュガーレスにされる程度。
……シュガーレスは許して。それ拷問。
臨月呪母の切っ尖を甲板に突き立てる。
その三ミリ横に、息も絶え絶えな梅唯の頸動脈。
「言ったでしょ。ボロッカスに負けるって」
「ぅ……く……私は、まダ……」
起き上がろうと踠く姿勢は御立派。
でも物理的に無理。幽体を斬ったから暫くは動けない。
意識が保ててるだけ、大した精神力。
「……なン、なのだ。貴様等、ハ」
「?」
何が。
「国に傅かズ、組織にモ身を置かず……果タすべき大義すら無イ、野良犬の分際デ……」
怒りか、悔しさか。涙伴う双眸で私を睨む梅唯。
いい歳した女が人前で泣かないでよ。正直引く。
「何モ……何も背負ってイない、半端者風情ニ、私ガ……国のたメ、全て国ノため戦イ続けて来タ、この私が、敗レるなど──」
「しょーもな」
透けた腕を胸部に突っ込み、ズタズタの幽体を掻き回す。
息を詰まらせたような短い悲鳴と共に、梅唯は気を失った。
「大義だの、責任だの、矜持だの」
そんなものの多寡が強さの基準になると、本気で信じてるワケ?
「馬鹿みたい」
さてはコイツ、物事は努力した分だけ報われるとか考えてるクチか。
居るのよね、こういう奴。
「私より十年は長く生きてるくせに、見えてないの? それとも認めたくないの?」
幼い道徳が尊ばれるのは子供の頃だけ。
現実は理不尽で、不条理で、不平等で、残酷。
「どんな高説を掲げたところで、大層な信念を抱えたところで──弱い奴は、弱いのよ」
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