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「ふふふ」
薄気味悪い、静かな矯笑。
より深く、黒剣がリゼの身を抉る。
「──あら?」
と。
「あら、あら、あら、あら?」
小首を傾げる白い女。
やや遅れて、俺も違和感に気付く。
心臓を穿たれたにも拘らず、胸元の刺し傷も黒い切っ尖も、殆ど血で濡れていないことに。
「あっぶ、なぁぁッ」
膠着の只中、するりと刃をすり抜けるリゼ。
どうやら水際で『
「いきなり何すんの、よッ!」
横薙ぎの蹴り。後ろに跳んで躱される。
続け様、手元へ喚び寄せた大鎌を振るい、追撃の三太刀。
「♪」
やけに緩やかな剣捌きで受け流される。
しかし、それは一瞬の暇を作るための牽制。
「『宙絶ヨツキ』」
脚に括り付けたまま呪詛を注がれたマゼランチドリ。
赤とも黒ともつかない斬撃が、七つに裂けて白い女を取り囲む。
そして──真円を模り、断絶領域を形成し、その内へと閉じ込めた。
「……
淡々と呟くリゼに駆け寄る。
億劫な所作で此方へ振り返ると同時、被膜が覆う胸元に触れた。
「大丈夫か」
「平気。でも籠手越しに触るのやめて」
血の気の引いた顔色。微かに震える肩。
ごく自然に振る舞ってるが、相当ギリギリの回避だった筈。
「済まん」
「なんでアンタが謝るのよ」
感知出来なかった。虚を突かれた。
いくら素の状態とは言え、地を這う蟻の数すら掌握可能な精度を有する完全索敵領域が、奴を捉えられなかった。
なんて体たらく。およそ許されざる失態。
前衛たる俺が、後衛のリゼに攻撃を通すなど。
「怪我は」
「…………ん」
問いに対し、何故か幾らかの逡巡。
けれど、やがて人差し指に嵌めたアーマーリングでスライムスーツを裂き、背中を晒す。
「少し刺さった」
血の滲む、小さな刺創。
「……………………そうか」
それを見た瞬間。頭の中で、何かが切れる音を聞いた。
寂寂と──心が凪いで行くのを、感じた。
「ちょっと下がってろ。選手交代だ」
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