559・Rize






 中国拳法って、日本の空手とか柔道と比べて動きがこう、わちゃわちゃしたイメージ。

 そんな大前提は、探索者シーカーの身体能力に合わせた改造が施されても同じみたい。


「シッ、フッ、ハァッ!」


 肘、膝、肩、貫手。

 目まぐるしく移ろう攻撃手段、読み辛い所作、曲線的な軌道。


 しかも各部位には属性エレメンタルまで纏ってる。

 打撃威力の掛け算、ついでに『幽体化アストラル』対策のつもりだろう。


 うん。


「浅はか」


 他が使う場合なら兎も角、私の『幽体化アストラル』は空間歪曲を混ぜ込んだ別物。

 幽体へ転じさせた身体を異なる位相にズラす複合技術。同系統のチカラが無ければ、何ひとつ届かない。


 尤も、今は肉体のままだけど。


「『飛斬』習得前は普通に近接主体だったのよね」

「ちょこマかト!」


 拳打蹴撃と属性エレメンタルの応酬をリズム良く躱し続ける。

 これでも中高で全日本四連覇した元新体操選手。体捌きは生半な格闘家より遥かに上。


 ──とは言え、相手は曲がりなりにも一桁シングルランカー。

 しかもスキル効果か何かで、身体能力が深層クリーチャー級に跳ね上がってる。


 スライムスーツの筋力補正、魂の知覚による先読みを踏まえても格差は歴然。

 反射神経や反応速度に至っては、目も当てられない。


 では何故、私が向こうの動きに対処出来ているのか。

 そのカラクリは、実に単純明快。


「おっそい」


 自己を対象とした空間固定の応用、体感時間の加速。

 現状、私は一秒を二十秒ほどの長さで過ごしてる。


 どんな猛攻も、蚊が止まるほど遅く感じれば無意味。

 超音速の拳なんて、地を這う蝸牛と同じ。


「シィッ!」

「不用意に上段蹴りを出すのは、連撃の組み立て的にどうなの?」


 臨月呪母の石突で軸足を払う。

 一瞬、宙に浮く梅唯。


 がら空きの腹部を三度──月彦が叩き折った肋骨部分に重ねる形で、打ち据えた。





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