558・Rize






「貴様ガ先手か『死神』」


 右手に火の、左手に氷の属性エレメンタルを集約させた梅唯が、魂の輪郭を尖らせる。


「丁度良イ。ここで借リを返スとしよウ」

「は? 借り? 言い掛かりはやめて貰えるかしら」


 身に覚えなんか無いんだけど。

 ──あ。まさか交流会の時、コイツの分までお菓子食べたの根に持ってるとか?

 違うの。あれは私じゃなくて、向こうから口の中に飛び込んで──


「貴様ヲ引き抜ケなかった所為デ、昇進が取り消シになった」


 だいぶ下らない真相だった。

 知らないわよ、そんなバックストーリー。


 第一。


「寧ろ私に感謝して欲しいくらいなのよね」


 呟きに対し返るのは、怪訝な表情。


「月彦は芯までイカレてるけど、殺人鬼じゃない。積極的に人を殺すことは無いわ」


 ただし面倒を押してまで他人を生かすほど倫理に明るくもない。

 要は「一応加減する。でも死んだら死んだで別に構わない」程度の心算で拳を振るう。


 加えて。


「アンタは多分もう見限られてる。半年前と腕前が大差無かったから」


 生かしたところで、これ以上劇的に強くなりそうもない。

 そんな判断が下地に据われば、必然的に加減の枷も緩む。

 うっかり縊る確率が、三倍くらいは上がる。


「困るのよ。おいそれ死なれると」


 隣国の要人を殺めたとなったら確実に厄介事を招く。

 諸々の事後処理を考えただけで頭痛くなりそう。


「だから私が相手してあげるの」


 臨月呪母を軽く振るい、足元に十字の痕を刻む。


「良かったわね。ボロッカスに負けるでしょうけど、少なくとも五体満足で帰れるわよ」

「…………言いたイことハ、それだケか?」


 あら怒った。

 煽り耐性が足りてないのね。





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