557
「高みの見物とは、結構な趣味をお持ちで」
縦に数十メートル、横に数百メートルを跳んだにも拘らず、ほぼ無音の着地。
中々のワザマエ……俺も素の身体能力で同じこと出来るから、間接的な自画自讃みたくなってしまった。汗顔の至り。
まあいい。折角、顔を突き合わせたんだ。まず挨拶と行こう。
コミュニケーションの表紙を彩る看板的な存在だぞ、挨拶。
表紙なのか看板なのかハッキリしたまえ。
「くたばりやがれキック」
ノーモーションの前蹴り。
未だ『豪血』状態の、重戦車がフレームごと変形する威力で放ったそれは、十字に構えた両腕で凌がれる。
「受け流したか」
運動エネルギーを打ち消す柔拳。
──尤も、そいつは既に奪掠済みだ。
「くたばりやがれキック・アクセルエディション」
「っぐ!?」
回転を加えた蹴りで内部に衝撃を浸透させ、防御を貫く。
──構え、息遣い、肉付き、重心、歩き方、走り方、跳び方。
凡ゆる些細が、深淵を暴き立てる判断材料。
故、俺は一度でも相対した奴の身体を用いた技巧は、例え直接見せられずとも全て分かるし、精髄を奪い、リファイン出来る。
ちなみに、そのコツを以前リゼに教えたところ、宇宙人と話してるみたいな顔をされた。
失敬極まる。
「右の四番五番、左の六番が折れたか。カルシウム不足だぞ」
「……相変わらズの化け物メ」
口の端から鮮血を滴らせ、悪態。
剃刀に似た切れ長の双眸が、忌々しげに俺を睨む。
「久し振りだってのに失礼千万だな
「人外に手向けル礼節なド、有りハしナイ」
言いおる。
「てかお前、日本語話せたっけ?」
「祖国の言葉デ貴様ヲ口汚く罵るワケには行かナイ。脳髄に電極を刺シて覚えタ」
「怖っ」
いやマジ怖っ。四十八個の意味で怖っ。
内訳を聞かれると困るけど怖っ。
…………。
「で? わざわざ俺達を呼び出したのは、お前か?」
「答えル必要が無イ」
脳味噌にダイレクトで知識をブチ込んだ所為か、所々イントネーションが怪しいな。
そして把握。メールの差出人はコイツに非ず。語調と視線の動きで理解。
それに関しちゃ、良かった良かった。
「さんざ期待させられた箱の中身が出涸らしじゃあ、溜息も乾く」
「……随分ナ言い草ダ。十全にスキルを扱エなかっタ屋内戦の前回と同じだト甘く見レば、命で対価を支払う羽目になるゾ」
ほほう、そいつは面白い。
是非とも支払わせてみろよ。命で。
「『鞘式・優曇──」
「月彦、ステイ」
樹鉄刀を形態変化させるべく身構える間際、静止の声。
「あァ?」
ピザ一枚を平らげたリゼが、俺の前に。
しかも、大鎌を担いだ立ち姿で。
どったのセンセー。
「腹ごなしに、少し運動したいのよね」
はあ。
「私がやるわ」
えー。
「駄目?」
「……しょうがねぇな」
お前がマトモに戦う気を見せるとか、考えてみれば珍しいし。
「好きにしろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます