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「高みの見物とは、結構な趣味をお持ちで」


 縦に数十メートル、横に数百メートルを跳んだにも拘らず、ほぼ無音の着地。

 中々のワザマエ……俺も素の身体能力で同じこと出来るから、間接的な自画自讃みたくなってしまった。汗顔の至り。


 まあいい。折角、顔を突き合わせたんだ。まず挨拶と行こう。

 コミュニケーションの表紙を彩る看板的な存在だぞ、挨拶。

 表紙なのか看板なのかハッキリしたまえ。


「くたばりやがれキック」


 ノーモーションの前蹴り。

 未だ『豪血』状態の、重戦車がフレームごと変形する威力で放ったそれは、十字に構えた両腕で凌がれる。


「受け流したか」


 運動エネルギーを打ち消す柔拳。

 探索者シーカー用で編纂された中国拳法に、そんな概念があったな。


 ──尤も、そいつは既にだ。


「くたばりやがれキック・アクセルエディション」

「っぐ!?」


 回転を加えた蹴りで内部に衝撃を浸透させ、防御を貫く。


 ──構え、息遣い、肉付き、重心、歩き方、走り方、跳び方。

 凡ゆる些細が、深淵を暴き立てる判断材料。


 故、俺は一度でも相対した奴の身体を用いた技巧は、例え直接見せられずとも全て分かるし、精髄を奪い、リファイン出来る。


 ちなみに、そのコツを以前リゼに教えたところ、宇宙人と話してるみたいな顔をされた。

 失敬極まる。


「右の四番五番、左の六番が折れたか。カルシウム不足だぞ」

「……相変わらズの化け物メ」


 口の端から鮮血を滴らせ、悪態。

 剃刀に似た切れ長の双眸が、忌々しげに俺を睨む。


「久し振りだってのに失礼千万だなウェイ。中国人は礼儀作法を重んじるんじゃねぇのか?」

「人外に手向けル礼節なド、有りハしナイ」


 言いおる。


「てかお前、日本語話せたっけ?」

「祖国の言葉デ貴様ヲ口汚く罵るワケには行かナイ。脳髄に電極を刺シて覚えタ」

「怖っ」


 いやマジ怖っ。四十八個の意味で怖っ。

 内訳を聞かれると困るけど怖っ。


 …………。


「で? わざわざ俺達を呼び出したのは、お前か?」

「答えル必要が無イ」


 脳味噌にダイレクトで知識をブチ込んだ所為か、所々イントネーションが怪しいな。


 そして把握。メールの差出人はコイツに非ず。語調と視線の動きで理解。

 それに関しちゃ、良かった良かった。


「さんざ期待させられた箱の中身が出涸らしじゃあ、溜息も乾く」

「……随分ナ言い草ダ。十全にスキルを扱エなかっタ屋内戦の前回と同じだト甘く見レば、命で対価を支払う羽目になるゾ」


 ほほう、そいつは面白い。

 是非とも支払わせてみろよ。命で。


「『鞘式・優曇──」


「月彦、ステイ」


 樹鉄刀を形態変化させるべく身構える間際、静止の声。


「あァ?」


 ピザ一枚を平らげたリゼが、俺の前に。

 しかも、大鎌を担いだ立ち姿で。

 どったのセンセー。


「腹ごなしに、少し運動したいのよね」


 はあ。


「私がやるわ」


 えー。


「駄目?」

「……しょうがねぇな」


 お前がマトモに戦う気を見せるとか、考えてみれば珍しいし。


「好きにしろ」





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