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「が、ああああああああッ!?」


 まさしく文字通り、言葉通りな青天の霹靂。

 四肢五臓六腑を内外より咀嚼する異常高電圧に、俺は悲鳴を上げて仰け反った。


「ぐうううううううう!」


 落雷の放電時間は通常、千分の一秒程度。

 だけれど、こいつは違う。尽きる気配も無く暴威を撒き散らし、我が身を焼き焦がす。


「ぬおおおおおおおお」


 このままでは月彦さんの危険がデンジャー。

 しかし人体の構造上、感電状態では指一本動かせん。

 金属の性質を得ることで受け流せる『鉄血』状態なら兎も角、今の俺は全くの無力。


 即ち大ピチン。じゃなかった、大ピンチなのだ。

 尚『鉄血』に切り替えれば、という正論極まるツッコミは禁止ワード。


「う、うわー。ぐえー。死ぬー」


 …………。


「いや長げぇわ。しつこい」


 アラクネの粘糸を張り詰め、直に操る形で腕を動かし、断式を振るい、貪らせる。

 同じ攻撃ダラダラ続けるんじゃありませんよ。飽きちまうだろ。


「もしもし、ピザお願いしたいんですけど。飲み物はドクペで……は? 置いてない?」


 リゼ貴様、俺のオスカー狙える名演技を前にピザ頼むとは一体どういう了見だ。

 つか来れるワケねーだろ。ここ太平洋のド真ん中だぞ。宅配ドローンに無限の可能性でも感じてんのか。


 ──と。


「『穿式・燕貝』」


 二発目の落雷。

 今度は食らうより先、細剣の刺突で相殺。

 いつも腹を空かせた樹鉄刀からすれば、数億ボルトの電圧も、口の中で弾けるキャンディに等しい。


「我が識覚を以てすれば、迎撃など造作も無し」

「じゃあ、なんで初撃は防がなかったのよ」


 三、四、五。

 押し寄せる後続を捌いてたら、リゼにジト目を向けられた。


 んなもん、一種の様式美ですよ。


「雷の帰還雷撃リターンストロークは光速に準ずる。流石に『深度・壱』の身体能力と索敵範囲じゃ、直接の回避は無理筋」


 が。


「照準とタイミングは先行放電ステップトリーダが懇切丁寧に教えてくれる」


 デカいエネルギーほど発露に際した前兆は露骨。況して百年単位で研究され続けている自然災害の仕組みなど、少しネットを漁れば簡単に手に入る。


 結論。


「テレフォンパンチより与し易い」

「もう神話生物でも名乗れば」


 解せぬ。お前だって落雷くらい簡単に対処出来るだろうが。


「次そっち行くぞ」

「『幽体化アストラル』」


 そら見たことか。そら見たことか。






 述べ五十発ほど樹鉄刀のオヤツにした後、ふつと雷鳴が鳴り止む。

 漸く無駄を悟ったか。有限な人生を無益に浪費するタイプだな。


「ン。心臓が停まってやがる」


 拳を胸部に打ち付ける。

 よし再稼働。俺が死ぬまで休まず働け、ウチはブラックだぞ。


「ねえ月彦、五百円持ってない? クレカ持って来てないし、電子マネーもチャージし忘れてて足りないのよ」

「ドライブスルーに入る感覚でピザ屋のカウンター前と空間を繋ぐんじゃねぇ」


 一瞬だけ服を元に戻し、ポケットに突っ込んであった万札をリゼに差し出す。


 次いで。手首を爪で掻き切った。


「『破界』を撃ってもいいんだが、魔石を持って来るのを忘れた」


 青く酸化する血を掌に溜め、振りかぶり、放つ。

 突発的に閃いた技シリーズ、最新作。


「『水月すいげつ』」


 音を置き去る血飛沫。

 散弾が如くバラけた水滴群は衝撃波を伴い、艦橋部を根本から抉り折り──その頂きに腰掛けていた人影を、此方へと引き摺り下ろした。





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