555
だだっ広い甲板上に、しかし立っているのは俺とリゼだけ。
他は悉くが倒れ伏し、のたうち回り、呻くばかり。
「少し身体が欠けたくらいで、大袈裟な」
足元に転がる、エンゲージリング付きの手首を拾う。
向こうで這いずりながら探してるオッサン発見。ぶん投げて顔面にヒット。
「親切な月彦さんは、失くし物を届けてあげるのでした」
「本を正せば、削ぎ落としたのアンタじゃない」
でも案外そんなもんだぞ、社会って。
「一応、誰も死んではいないのね」
亜空間から此方側に戻った後、ガムを噛み始めたリゼが至極どうでも良さそうに呟く。
「殺し殺されのシーソーゲームこそ世の摂理。逆立ちしたって俺を殺せねぇ奴等に、いちいちダブルタップして回るほど几帳面じゃねぇ」
あと、生かしとけば次に会う時は今の百倍強くなってるかもだし。
人間万事塞翁が馬、てな。
「ところで船酔いは大丈夫か」
「取り敢えず平気」
ここまで船体が巨大だと、ほぼ陸地に居るのと変わらん模様。
まあ酔ったら酔ったで、薬に浸した針を打ってやればいいだけの話。
鋭過ぎる平衡感覚ってのも良し悪しだよな。
「さァ、て」
踵で何度か甲板を叩く。
ダンジョン産の金属、品質的には三十番台階層クラスを混ぜ込んだ合金製。
厚さは概ね五メートル。その向こうにある船体も、同様の素材で建造されてるな。
「豪血」
動脈に赤光を流すと同時、奥歯に仕込んだ奇剣を起動。
体表を伝う紫電。鋭く爆ぜるスパーク音。
着ていた衣服が瞬く間、装備一式と入れ替わる。
「『断式・仏鉢』」
身の丈を超える大剣に変じる樹鉄刀。
並行し『豪血』を適用させ、赤が絡み付く剣身。
「楽しい甲板割りの時間だぜ」
「『深度・弐』状態でタンカー割りに打って出なかった点だけは褒めてあげる」
馬鹿野郎リゼちー、いきなりタイタニックじゃオタノシミが減っちまうだろ。
ブチ破って船内に突入したら、いざシージャックの予定なんだぞ。
「ぅるるるるるる」
爪を立てた柄が軋む。
収斂するエネルギーの熱を受け、周囲の大気が仄揺らぐ。
そして。膂力と技巧を乗算させた一撃を、いざ振り下ろす間際──
──雲ひとつ無い青空から降り注いだ紫電が、骨肉を掻き毟った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます