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広大な水平線が八方を占める光景。
上空に開かせた二点空間接合境界を抜け、スカイダイブ。
パラシュートは甘え。バンジージャンプもノーロープ派。
「ハハッハァ! 中々の見晴らしだ!」
海面との距離、約四千メートル。
自由落下に於ける着水までの所要時間は、ざっと三十秒。
「やっぱ現代社会は人だの物だのゴチャゴチャ散らかってて駄目だな! 間引くか、人類!」
百人くらいで良いよ、もう。
「何その場のノリで恐ろしい計画立て始めてるの」
と。スライムスーツに着替えたリゼが、ブーツに仕込んだ空中跳躍機構で落下速度と方向を調整し、俺の懐へ飛び込む。
抱きかかえたら、喉を噛まれた。
「ポストアポカリプスはやめてって前にも言ったでしょ。ケーキひと切れの価値が一万倍とかになったら、どう責任取る気よ」
ごめんなソーリー。
「豪血」
動脈へと赤光を灯し、音よりも遥かに速く虚空を蹴り付け、跳ぶ。
「あそこだな」
海原の只中に浮かぶ鉄塊。
全長一キロにも届くだろう、巨大タンカー。
船尾の艦橋部を除いた殆ど全てが、滑らかな平面の甲板。
不自然に分厚い。あからさま荒事向きな構造。
「なんとも大層な舞台を御用意頂いたもんだ」
斯様な代物、かなりの財力と権力を持った者でなければ到底用立てられまい。
いいね。ますます期待が高まるぜ。
「鉄血」
時速七百キロ。
抱えたリゼに累が及ばぬギリギリの速度で、降り立つ。
着地時の衝突に際し、鳴り渡る金属音。
運動エネルギーは俺の両脚で大半を引き受けたため、船体にダメージは無い。
まあ別に、沈めたって構わんのだが。
「リゼ」
「りょ」
抜き放たれたマゼランチドリに注ぎ込まれる呪詛。
脈打ち、揺らめく、短尺かつ異形のブレード。
そのままリゼは爪先を軸、ナイフを腕ごと横薙ぐように、くるりと回った。
「『ヒトツキ
太刀筋をなぞる形で『飛斬』の軌跡が伸びる。
呪いを孕んだ、赤とも黒ともつかない色味。
放つ間際『
そして。一見、何も無い其処彼処の空間へと、次々に突き刺さって行く。
「光学迷彩とは豪勢だな」
機能を失い、滲み出る輪郭。
見通しの利く甲板上に潜んでいた、述べ百人ばかりの武装集団。
「しかし奇襲を掛けるにゃ、リサーチ不足も甚だしい」
アホ共め。視覚を誤魔化したところで俺には意味ねーし、魂を直に感じ取れるリゼも同様。
待ち伏せする相手の能力詳細くらい把握しとけよ。確かに非公開情報だけど。
「ま。そもそも人生ってのは、想定した通りに運ばないもんだ」
何人かは当たりどころが悪かったのか、泡吹いて痙攣中。
しかし『宙絶』ではなく『
「つーワケで」
開幕の合図代わり、震脚を打つ。
重厚な金属板に、深々と足型が刻まれた。
「──死にたい奴から前に出ろ」
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