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「一年の計は元旦にあり」


 転じて。


「一日の源は朝食にあり」


 業務用の炊飯ジャーから立ち上る湯気。

 よく立った米に、両手を突っ込む。


 普通なら大火傷。

 だが繰り返し『鉄血』を用い続けたことで単純な強度に留まらず、耐冷耐熱耐毒耐腐食などの各種防御能力を高めた我が肉体を以てすれば、造作も無し。

 米は一度に多く炊いた方が美味いし、握り飯も熱いうちに作った方が美味いのだ。

 たぶん。


「人は結局ライスボールに回帰する」


 形成は素早く。味付けは白湯で溶かした塩を散らしてある。

 この方が粒で使うより馴染むし、更に言うなら多少適当にやって濃淡をバラつかせた方が良い。

 不均一こそ、味わいを引き立てる秘訣。


「じー」


 それが証拠、襖の奥から此方を窺うリゼの姿。

 シンプルな塩握りにも拘らず、食欲の篭った眼差しが注がれている。


 だが、まだだ。白一色の食卓では戦端を開くに心許ない。

 一に栄養、二に旨味。三、四が無くて、五に彩り。


「とう」


 卵焼き器を振るい、綺麗な黄色の長方形を引っ繰り返す。


 リゼが好きな、甘々半熟仕立て。

 軽い箸なら押し返す弾力と、包丁を入れれば中身がトロリと溢れる絶妙な塩梅。

 多量の砂糖を使うと表面が焦げやすくなるため、要注意。


「せいや」


 更に隣のクッキングヒーター。フライパンの火力を最大まで上げ、蓋を取る。


 油ではなく水を張り、焼きボイルにしたウインナー。

 皮を裂けさせず、肉汁が詰まったまま調理する際の手法。

 ただし最後に水分を飛ばし、パリッとした歯応えを与えられるタイミングが少々シビア。


「フィニッシュ」


 鶏卵十個分の卵焼きを皿に上げ、包丁に熱が移るより早くカット。

 同じようにウインナーも、キャベツの千切りを敷いた大皿へと盛る。


 あとは、一個あたり半合きっかりで拵えた握り飯を揃えて。


「調理終了」


 握り飯、卵焼き、ウインナー。あと茶。

 題して『こういうのでいいんだよブレックファースト』完成。


 まあ五分くらいでパパッと作った手抜き料理に、御大層なモノローグを添えただけなんだが。






「お前お嬢様のくせ、安っぽいモンを随分と美味そうに食うよな」

「こういうのでいいのよ、こういうので」


 秒で握り飯を三つ胃袋に収めたリゼが、通ぶった風に頷く。

 左様ですか。


「…………」

「?」


 かと思えば唐突に、その赤い瞳で俺を見据える。

 どったのセンセー。


「なんだかんだ、全般的なスペックには恵まれてるのよね」

「あァ?」


 なんじゃそりゃ。


「ワケ分からんこと言ってねぇで、食い終わったら支度しろよ」


 何せ。


「今日は楽しいイベントデーだ。エイリアン襲来級のスペクタクルが俺達を待ってるに違いない」

「……人格面の問題が多過ぎて、トータルだとレビュー星三つ、てとこかしら」


 サラッと失礼なディスを受けた。

 誰がバグだらけの不良OSだ、誰が。


「ま、アンタは頭おかしいくらいが丁度良いわよ」


 指先で摘んだ卵焼きを一片、差し出される。


「完全無欠な奴の隣なんて、想像しただけで息が詰まるもの」


 些か釈然としないものを感じつつ、それを直に口で受け取った。


「甘めぇ」


 どちらかと言えば、俺は出汁巻きの方が好きなんだよな。





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