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「では皆さん! 本日も地域のため、延いては保護猫様のため、頑張りましょう!」
目付きのイッたオッサンが音頭を取り、それに応じて声を張る集団。
ここ暫く、駅前を通る度に見かける。
しかも。
「また増えてやがる」
昨日吉田をシメ上げて問うたところ、頭を打ったショックで悟りビームの撃ち方を忘れたそうだが……まさか伝染するんじゃないだろうな。
ボランティアシンドローム・パンデミックとか普通に嫌過ぎるわ。どんなB級映画だ。
「……ま、そうなったらそん時か」
それよりも、だ。
「なあリゼ。
「その筈ね。知らないけど」
僅か半年で御役御免となった
表示された空間投影ディスプレイが映すメール、春先に届いたものと似通った告知に、首を傾げる。
「アレか。初ランクインが二人も居るからか」
「そうじゃないの。知らないけど」
一体どこのどいつだ、語尾に「知らないけど」と添える論法をリゼに教えたのは。
こいつの性格に噛み合い過ぎて、それしか言わなくなりそうな勢いだぞ。
「……ん?」
内心で悪態を吐いていると、おもむろに微かな違和感が脳裏を掠めた。
再度メールに綴られた文面を読み返す。
取り立てて不審なところは無い。
にも拘らず、検めるほど喉に小骨が痞えて行く。
…………。
確かめておくか。
「リゼ」
「知らないけど」
それはもういい。
探索者支援協会甲府支部。
受付で機材を借用する旨を伝えた後、腕輪型端末を有線で接続し、キーボードを叩く。
「……やっぱりな」
偽装されているものの、公的機関から送られたメールではない。
リゼのデータフォルダに残ってた前回の案内と見比べれば瞭然で、書式が微妙に違う。
「俺達をペテンに掛けようたァ、いい度胸だ」
しかも何が面白いって、これは明らかにバレる前提の仕込みだということ。
即ち、完全な挑発行為。
「どうするの?」
板ガムを三枚纏めて口に入れたリゼが、俺に問う。
どうするって。そんなもん、お前。
「折角の御招待だ。行くに決まってんだろーがよォッ」
「……聞いた私が馬鹿だったわね」
安っぽい人工甘味料の匂い漂う盛大な溜息が、低く唸る機械音に溶けて消えた。
「日取りは来週末か」
いやー楽しみだなー。
手土産とか持って行かないとなー。
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