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 予め断っておくなら、俺はDランキングの順位なんぞに然したる関心は無い。

 目録の千人にさえ含まれていれば、難度十ダンジョンへの挑戦権さえ手に入れば、一位だろうが千位だろうがどうでもいい。


 ──が、しかし。ヒルダより下って扱いだけは、およそ承服しかねる。


「ポイント差……八点だと?」


 下手すれば一桁台階層を彷徨いてる木端クリーチャーの首ひとつで逆転可能な点差。

 ヤバいな。ムカつき過ぎて血管切れそう。


「百パー計算ミスだ」


 俺が一位ならヒルダは二位。

 俺が千位ならヒルダは千とんで一位。

 そうじゃなきゃおかしいだろ。世界の法則が乱れてるぞ。


「クソが。中央機関に抗議の電話を鬼プッシュしてやろうか」

「負け惜しみぃ」


 よし殺す。樹鉄刀展開。


「『鞘式・優曇──」

「やめなさいアンポンタン」


 ふんぎゃろ。






「行きも帰りもリゼ頼みのキミと違って、僕はコツコツ高難度ダンジョンの攻略に励んだんだ」

「『コツコツ』と『高難度ダンジョン』は、割かし対義語だと思うのよね」


 マニキュアを塗るリゼの、だいぶ尤もな御意見。


「空間転移で移動すれば各階層攻略の貢献度は、ほぼ全てリゼに振られてしまう」


 それはそう。

 だからこそ長らくトップファイブに君臨し続けたハガネやシンゲンすら飛び越え、二位へと食い込んだ次第。


 寧ろ、一線級百人分にも等しい点数のリゼを凌いでる現一位こそ異常。

 有り得んだろ常考。どんな生活送ってんだ。


「……逆に言うとツキヒコ。キミは殆どクリーチャーの討伐ポイントだけで一桁シングル入りしたことになる」


 それもそう。

 深層に赴く度、その階層のクリーチャーを絶滅状態に追い遣ってたし。


 多少ネック気味だった範囲攻撃手段も、今や『破界』と『落月』がある。

 加え、酷使に応じ性能を上げて行く装備品の性質も手伝い、最早七十番台階層クラスの輩だろうと蹴散らせちまう。

 あーあ。






「ぅるるるるる!」

「ぐぬぬぬぬぬ!」


 なるべく平和的に諍いを収めろとリゼから御達しを受けたため、アームレスリング中。

 台はテーブルとかだと普通にブッ壊れるため、二百ミリの鉄板を敷いた。


「大体なんで登録名をコロコロ変えるのさ! 誰さ徳川家安! このパチモン!」

「俺の勝手だろうが! 個人情報の漏洩防止のためだ!」

「すっごい今更! 完全に無駄な努力!」

「んだとゴルァ!!」


 くそったれ、押し込めねぇ。

 下敷きの鉄板が拉げるギリギリまで力を篭めてるってのに、馬鹿力め。


「いや貴君ら。なにゆえ拙の工房で相争ってるのか」


 炉の前でヒルダの石剣を研いでた果心が、溜息混じりに振り返る。

 今日は祖父殿と同年代の老人の姿。お陰で言動が穏やか。そのままの君でいて。


「あァ!? 仕方ねぇだろ! 丁度アンタのとこに顔出してた最中、ヒルダのアホが遊びに来たいって連絡入れやがったんだから!」

「理由にならんぞ」


 うーむ、ド正論。


 ちなみに此度のDランキング更新、ダンジョンに潜ること自体ほぼ無い筈の果心も八百位くらいでランクインしている。

 なんでも『十三の牙』のうち五本を造ったのがコイツで、その功績が多大な社会貢献ポイントになったらしい。


 お陰でオーダーメイドの依頼が百件近く舞い込んでるとか。

 流行に弱いミーハー共め。言っとくがクセの強い奇剣しか造らんからな、この一人老若男女マッドクリエイター。


「そら研ぎ上がったぞ。全く、酷い刃毀れと歪みだった。あのような有様では、本来の斬れ味に遠く及ぶまい」

「ありが、とう! それの手入れを、出来る職人が、ドイチュラントじゃ見付からなくて、ね! すごく! 困って! たんだ! ぐぬぬ!」


 こんにゃろう、さっさと諦めろ。

 或いは義手ごとヘシ折れろ。





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