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 アタックの都度に最低四十八時間のクーリングタイムを挟まなければならんとは言え、空間転移を擁する俺達のやり方で繰り返しダンジョンに潜っていれば、必然的にドロップ品も溜まる。


 大抵は売り払ってリゼの口座に入れてるんだが、深層の品ともなると値が張り過ぎて簡単には捌けん物も多い。

 ま、そういうのは果心へ押し付ける形で片付けてるけれど。


 ただ、中には──なんとなく売らずにコレクションしてるアイテムも、あったりする。






「アレだな。もう飽きた」


 畳の上にピラミッド形で積んだスキルペーパーの山。その数ざっと百枚。

 ちなみに全て選択式。中身の分からんランダム式は集めたところで面白くないからな。


 しかし。


「意味不明なスキルを見漁り、ツッコミを交えて失笑。思い返せば虚しい趣味だ」

「典型的なマイブーム燃え尽き症候群ね」


 なんだよ、ウインクが上手くなるスキルって。

 んなもんがあって役立つのは、精々アイドルかキャバ嬢くらいだろ。


「決めた。売っ払う」

「オークションが賑わいそう」


 適当なスクロールを手に取り、くるくると弄ぶリゼ。


「──選択式スキルペーパー。四つから六つ記載されたスキルのいずれかを選び、習得する形式のスキルペーパーを指す」


 どうした急に。


「戦闘系、非戦闘系、混在系の三種に分かれてて、それらの分類はスクロールを綴じる封蝋の印影で判別可能」


 いやホント、どうした急に。

 解説キャラでも目指すのか。やめとけやめとけ、学力低いんだから。


「『飛斬』と『消穢』。他にも『サンダーランス』『炎剣』『ブリザードアックス』『グランドスパイク』『座頭市』『聖歌ソング』……ああ、そう言えば『モナ・リザ』もあったかしら」


 選択式で得られるレア物は概ね網羅済みだ。

 俺もリゼも、なんならヒルダもスロット全部埋まってるから普通に無用の長物だけど。


「過去五年間の平均落札価格で計算すると……」


 空間投影ディスプレイを展開させ、数字を打ち込んで行くリゼ。

 そうして弾き出した数字が、俺の視界にも共有された。


「九億八千万円てとこね」

「ふーん」


 レア物の価格帯は五百万から二千万ほど。

 ただし不老効果付きの『モナ・リザ』は群を抜いており、最低でも四億以上の値が付いてる。


「金が増える一方だ。個人での溜め込みは経済観念的に好ましくない」


 いっそ探索者支援協会に寄贈し、デビュー前の後輩達にでもバラ撒いて貰うかね。

 いや待て。そんな真似したら感謝状とか渡されかねん。気持ち悪っ。


「……仕方ねぇ。どっか適当なとこにショバを借りるか」

「何する気よ」


 決まってんだろ。


「テキ屋を開く」


 暇潰しくらいには、なるかも知れん。





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