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よくよく考えたら、九州の離島に位置するダンジョンまでドロップ品を獲りに行かせた挙句そいつを手ずから函館に届けろとか、かなり人使いが荒いオーダーだよな。
しかも全行程のタイムリミットは六時間。虐めかよタチ悪りぃ。
まあ出来る出来ないで問われりゃ、余裕だけど。
リゼが居れば火星だろうと三十秒で行けるし、俺のスキルがあればドロップ率が百万分の一未満だろうと一発だし。
むべなるかな。
「頼まれたモン持って来たぞ、果心」
「御苦労。報酬は作業台の上に置いてある」
なんだこれ。
「月齢七ツと……ついでだ。防具も出せ」
「てな具合で、こんなの貰った」
「何これ」
卓袱台に置いた礼品を、なんとも怪訝な表情で見遣るリゼ。
そりゃそうだ。
「歯?」
「義歯だな」
一瞥では本物と区別つかないほど精巧な大臼歯。
相変わらず仕事が細かい。
「奇剣シリーズの最新作だとよ。第何子かは忘れたが、銘は確か……あー、そっちも忘れた」
「……剣?」
疑問を差し挟みたくなる気持ちは分かる。
俺も最初、首を傾げた。
「使い道は?」
「実演しよう」
まずは自分の奥歯を一本、引っこ抜きます。
そして、義歯を力尽くで差し込みましょう。
果心は移植手術を受けることを薦めていましたが、面倒なので力尽くです。
力尽くは大抵のことを解決してくれます。
「痛くないの?」
「痛くなきゃ具合が分からんだろ」
だからどうした。
「ん、噛み合わせ良好。あとは歯神経を繋げば完成」
飛び散った青い血を拭き取り、抜いた方の歯を指先で押し潰す。
十数年間お疲れさん。
「コイツは一種の圧縮鞄でな。中に樹鉄刀と女隷が仕舞ってある」
だいぶシビアな設定を要するらしく、他には何も格納出来ないそうだ。
けれど、その不便を押して有り余る、絶大な利点がある。
──顎を噛み締めると同時、体表を爆ぜる紫電。
四半秒後、ここ最近は買う時も着る時もリゼに選ばせている普段着が、装備一式へと入れ替わった。
「え」
「ハハッハァ。どうだ驚いたか」
繋いだ神経をモーションキャプチャー代わりに座標指定し、内容物を取り出す仕組み。
俺自身を圧縮鞄の一部と認識させることで、強引に可能としたシステム。
リターン機能は増設に時間が掛かり過ぎるんで諦める以外なかったが、思わぬ形で理想に近いものを得た。
自動で着脱されるヒルダの鎧、実は密かに羨ましく思っていたのだ。
「常在戦場。これでいつでも万全万端」
「…………」
どったのリゼちー。
苦虫を何匹も纏めて噛み潰したみたいな顔して。
「……あんのマッド、余計な物を……渡す相手くらい選びなさいよ……」
どーゆー意味だ、貴様。
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