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〈ぽ〉

〈ぽぽぽ〉

〈ぽぽぽぽぽぽぽ〉


 澱んだ黒が七つ、七方から迫る。


 度を越した濃度ゆえに質量すら得た、あらゆる汚濁を払う筈の『消穢』でも押し負ける埒外な呪詛。

 俺の『鉄血』では、あまり防げないタイプの攻撃。


「豪血」


 動脈に赤光を這わす。

 けれど未だ、速度も膂力も向こうが勝る。


 当然だ。相手は難度六ダンジョンの最奥、五十階層に棲まう怪物。

 もしも野に解き放たれれば、百万都市を容易く更地と帰せしめる程度の力は持ち合わせている厄災。


 クリーチャーとしての格付けは準深層クラス。

 そいつを『深度・壱』で迎え撃つなど、些か驕りが過ぎる。


 ──しかしそれは、あくまで向こうが万全ならばの話。


 復活を遂げてより半年ほど続く回復期間中、ダンジョンボスの戦闘能力は迷宮丸ごと巻き込む形で悲しいくらいに目減りする。


「深度を上げる必要もねぇ」


 不足分の身体能力は技術で補う。

 両腕の核式を番式に移し、呪詛の槍を残らず弾き返す。


 ……そう言えば、おおよそ一年前だったな。初めてコイツと戦ったのは。

 あの時は死を間近に感じるような激戦で、悦が止まらなかった。


「寂しいもんだ」


 どうやら例外もあるみたいだが、フロアボスもダンジョンボスも、倒される度に存在をリセットする。

 経験を積み重ねることも、生まれ落ちた時以上に強くなることも無い。


 即ち。


「いっぺん降せば、雑魚同然」

〈ぽ──〉

「『刃軋』」


 剣身に並ぶ鋸刃を震わせ、チェーンソーと成す。

 逆手に持ち替え、太刀筋を編む。


「くたばれ」


 ジャスト一秒間、きっかり一センチ角での賽の目切り。

 要塞に等しい呪詛の鎧も、バターにナイフを通すが如し。


 巨躯の女怪、最強の都市伝説系クリーチャーは、己の死すら自覚せぬまま無数の肉片と変わり果て、崩れ去った。


 あーあ。


「つまんね」





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