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 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


 古めかしい、如何にもな雰囲気。

 歩く度に床が軋む、木造の廊下。


 ──電波など届いていない筈だと言うのに、スマホが設定した覚えの無い着信音を鳴らし始めた。


「もしもし」


 繋いだ途端、スピーカー越しに響き渡る、けたたましい金切り声。

 呪毒を帯びた、聴いた者を蝕む怨嗟。都市伝説系クリーチャー『ボイス』か。


「リゼ」

「りょ」


 呪いや属性エレメンタルなどの事象に対する感知能力は、俺よりリゼの方が遥かに高い。

 まあ呪詛返しの要領で『呪血』を使っても構わんが、ケーキはテーブルに並んだ皿の数だけ切り分けるもんだ。


「しぃっ」


 俺の呼び掛けに、そう間を置かず振るわれるマゼランチドリ。

 異形かつ短尺なナイフの刃先から伸びる『飛斬』の轍は、壁三枚を濡れた和紙同然に裂き、呪詛の根源たるクリーチャーの核を断った。


〈ウフフフフフ〉


 次いで、息を入れる暇も無く廊下の天井から現れた一体の幽霊レイス


 青褪めた肌。ギョロついた目玉。笑んだ口元に覗く乱杭歯。

 およそ人間離れした様相だが、個人的には割と愛嬌が感じられる。


「ふむ」


 なんだっけかコイツ。確か学校系の怪談がモチーフの奴だったと思うが。

 ここ廃校舎っぽいし。


〈ウフフフ──……シツレイシマシタ〉

「待てコラ」


 俺を見るや否や真顔となり、逆再生の如く天井に引っ込もうとした幽霊レイスの脚を掴む。

 それでも二十番台階層のクリーチャーか。情けねぇ。






「またスキルペーパー出やがった。もう三つ目だぞ」

「今日は妙に当たるわね。ドロップ率、万分の一くらいなのに」


 難度六ダンジョン軍艦島、二十九階層。

 欲しい素材があると果心に急な依頼を受けて訪れ、はや数時間。

 目的の品は既に入手したが、蜻蛉返りも勿体ないため軽くレジャー中。


「しかし、どいつもこいつも逃げる逃げる。遠距離攻撃する輩だけだぞ、向かって来るの」

「クリーチャーも命は惜しいんでしょ」


 片手でマゼランチドリを弄び、逆の手では魔石を十五個お手玉しつつ、リゼが呟く。


「……背中向けた雑魚を何百縊ったところで、これっぽっちも面白くねぇ」

「じゃあ、もう帰る?」


 雛鳥のように開けられた口へとチョコバーを突っ込む。

 折角のダンジョンをフラストレーション溜めるだけで終わらせるのも、ちょっとな。


「しゃーねぇ、最深部まで行くか。直近のリポップ以降まだ狩られてないだろ、八尺様」

「りょ」


 そうと決まれば、善は急げ。


「繋いでくれ」

「その前にティータイム」


 はい。





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