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「何か飲むかい? ウイスキーなら二十五年ものの良いやつがある」
訪ねた先で飲み物を出される際、酒を勧められる率が異様に高いのは何故だろう。
こちとら下戸だっての。ごく少量でもアルコールを摂取しようものなら記憶トぶぞ。
「……ゲイシャを一杯くれ。カプチーノでな」
「ど、どうぞ」
おずおずと置かれた、湯気薫るカップ。
コーヒー屋でも扱っているか微妙なくらいには珍しい豆なのだが、キッチンの戸棚に入ってたことは完全索敵領域で確認済み。
にしても、よく俺の好物がピンポイントで置いてあったもんだ。
しかも匂いなどから察するに、博士達は紅茶派の筈なんだけれども。
「たまたま昨日u-aが買って来ていてね」
未来予知での先回りかよ。抜け目の無い奴。
「ありがとう、ミス・庵。結構な御点前で」
やや釈然としない心持ちながら、それはそれ、淹れてくれた庵女史へと礼を述べたところ、顔を真っ赤にして地下を出て行ってしまった。
……なんつーか。u-a以外の四機、揃いも揃って男に免疫なさ過ぎだろ。
ライブでの振る舞いには取り立ててそういう印象無かったが、オフィシャルとプライベートで意識変わるタイプか。公私の切替ハッキリしてるんだろうな。ロボだし。
まあ、そういう奴に限ってロクでもない男に入れ上げたりするもんだが。
「将来が心配になるぜ」
「……やっぱり、そう思う? 仕方ないとは言え、女所帯がいけなかったのかなぁ……」
いっそ一人二人くらい、男性型にしとけば良かったんじゃね。
生活環境に於ける男女比って、社会性を養う上で割かし重要なファクターだぞ。
まあ、素材の都合から
何せシンギュラを構成する生体部品の原材料は──殆どが女怪の骨肉だ。
「笑える」
高い強度と生命力を併せ持ち、基本的な身体構造が人間と大差無い系統。
そんなクリーチャー達がドロップ品として残す肉体の一部を寄せ集めて整形し、機械義肢や人工臓器などでパッチワークしたモノこそ、あの五姉妹。
他ならぬu-aが、そう言っていた。
「かなり大爆笑」
そりゃあ汎用AIどころか、躯体の製造技術すら公開出来んワケだ。
発想自体は至極合理的なれど、倫理面でのウケが悪過ぎる。
延いてu-aに至っては、それどころの話じゃねぇし。
「ハハッ」
尤も、個人的な意見を言わせて貰うなら、有用なんだしガンガン使えばオーケー。
世の中、やれ人道だの良識だのコンプライアンスだの、無駄な制約ばかりで参る。
発展の足を引っ張るモラルなんぞに、如何程の価値があると申すのか。
「つくづく、かったりぃなァ……社会ってヤツは」
「?」
怪訝そうに首を傾げる博士殿。
こっちの話だ。お気になさらず。
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