530






「何か飲むかい? ウイスキーなら二十五年ものの良いやつがある」


 訪ねた先で飲み物を出される際、酒を勧められる率が異様に高いのは何故だろう。

 こちとら下戸だっての。ごく少量でもアルコールを摂取しようものなら記憶トぶぞ。


「……ゲイシャを一杯くれ。カプチーノでな」






「ど、どうぞ」


 おずおずと置かれた、湯気薫るカップ。

 コーヒー屋でも扱っているか微妙なくらいには珍しい豆なのだが、キッチンの戸棚に入ってたことは完全索敵領域で確認済み。


 にしても、よく俺の好物がピンポイントで置いてあったもんだ。

 しかも匂いなどから察するに、博士達は紅茶派の筈なんだけれども。


「たまたま昨日u-aが買って来ていてね」


 未来予知での先回りかよ。抜け目の無い奴。


「ありがとう、ミス・庵。結構な御点前で」


 やや釈然としない心持ちながら、それはそれ、淹れてくれた庵女史へと礼を述べたところ、顔を真っ赤にして地下を出て行ってしまった。


 ……なんつーか。u-a以外の四機、揃いも揃って男に免疫なさ過ぎだろ。

 ライブでの振る舞いには取り立ててそういう印象無かったが、オフィシャルとプライベートで意識変わるタイプか。公私の切替ハッキリしてるんだろうな。ロボだし。

 まあ、そういう奴に限ってロクでもない男に入れ上げたりするもんだが。


「将来が心配になるぜ」

「……やっぱり、そう思う? 仕方ないとは言え、女所帯がいけなかったのかなぁ……」


 いっそ一人二人くらい、男性型にしとけば良かったんじゃね。

 生活環境に於ける男女比って、社会性を養う上で割かし重要なファクターだぞ。


 まあ、素材の都合から女性型ガイノイドしか造れなかったのは知ってるけども。


 何せシンギュラを構成する生体部品の原材料は──殆どがだ。


「笑える」


 高い強度と生命力を併せ持ち、基本的な身体構造が人間と大差無い系統。

 そんなクリーチャー達がドロップ品として残す肉体の一部を寄せ集めて整形し、機械義肢や人工臓器などでパッチワークしたモノこそ、あの五姉妹。


 他ならぬu-aが、そう言っていた。


「かなり大爆笑」


 そりゃあ汎用AIどころか、躯体の製造技術すら公開出来んワケだ。

 発想自体は至極合理的なれど、倫理面でのウケが悪過ぎる。


 延いてu-aに至っては、


「ハハッ」


 尤も、個人的な意見を言わせて貰うなら、有用なんだしガンガン使えばオーケー。

 世の中、やれ人道だの良識だのコンプライアンスだの、無駄な制約ばかりで参る。

 発展の足を引っ張るモラルなんぞに、如何程の価値があると申すのか。


「つくづく、かったりぃなァ……社会ってヤツは」

「?」


 怪訝そうに首を傾げる博士殿。

 こっちの話だ。お気になさらず。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る