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 適当なクレーターの縁に座り、併せて『豪血』を解く。


「血が足りねぇ」


 あー気持ち悪。

 ここで『錬血』を使うワケにも行かんし、増血薬持って来とけば良かった。


 あれ、でも有効期限が大丈夫なの残ってたっけか。

 一日過ぎただけで、味も薬効も死ぬほど劣化するんだよな。


「砕けた骨の破片も、あちこち刺さってやがる。邪魔くせぇ」


 骨片に通った糸を張り、細かく整形。

 よしオーケー。後で三級ローランク二級ミドルランク回復薬ポーションを飲めば完治だ。


 ──しかし。


「虚しい」


 我が心境、さながら晩秋のカブトムシが如し。

 諫早の波しぶきを思い出す。行ったことないけど、諫早。


「燃え切らねーなァ……」


 多分に焼け残りが燻った胸を、血が滲むほど掻く。


 ちらと視線を向けた先には、うつ伏せで倒れる人影。

 瀟洒だったスーツは無残に裂け、正体を覆い隠す薄黒い靄も剥がれかけた、半死半生の襲撃者。


 ……奴さんは間違いなく難度八ダンジョンボス、アステリオス・ジ・オリジンや絶凍竜妃フォーマルハウトにも劣らぬ腕前だった。

 それが奮戦したとは言え、素手の俺に、あのザマ。


 対し、此方の損傷は微々たるもの。そも大半が自傷や自壊。

 ほんの半年足らず前、死に目を見せられたレベルが、今や完全な格下。


 否。難度九すら『深度・参』の前では虫ケラ同然だった。


「そりゃそうだ」


 光よりも速い、時間と空間の整合性さえ失われる次元の身体能力。

 理の枠内、尋常の存在に渡り合うことを求める方が酷な、理外の領域。


 分かっている。

 分かっているからこそ──渇く一方だ。


「俺より強い奴と、闘りてーなァ」


 難度十ダンジョンは、リゼからの禁止令が依然継続中。

 いっそ、ハガネかシンゲンを狙うべきか。ガチを望むなら他の六趣會を一人二人殺すって手もアリだな。


 なんなら他国で名を馳せてる連中に喧嘩を売っても構わない。

 Dランキング現一位が率いる世界最強の探索者シーカー集団、ブラックマリアとか。


 …………。

 兎にも角にも、渇く。

 渇いて渇いて、仕方ねぇ。


「はーっ」


 アンニュイですよ、月彦さん。





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