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 動きを止めた俺に好機とばかり飛び掛かるスーツ野郎、或いは女郎。たぶん女郎。


 奴本体は認識阻害効果で見極め辛いが、完全索敵領域はそれ以外の全てを捉える。

 然らば、目隠しなど無いも同じ。


「右上下右下上上右左下」


 その次を繰り出す瞬間、僅かに所作が鈍る。

 予め十撃一組で幾つもの攻撃パターンを組み立て、それぞれの動きを身体に染み込ませている証左。


 故にこその部分だけ、ほんの少し所作が軋む。

 そこを狙──わず、敢えて一番隙が無いところへとノイズを差し込んだ。

 定石に逆らいたい年頃。


「発破」


 鳩尾への掌底。

 咄嗟、折り畳んだ膝で防がれる。


「そりゃ悪手」


 その膝を掴み、上にブン投げてやった。

 ついでに懐の拳銃も拝借。


「銃を使うのは久し振りだな」


 てか使ったことあったっけか。忘れた。

 まあ兎に角、宙を舞うアンノウン殿を狙い撃つ。


「遅っせぇ」


 弾速もさることながら、発砲に際したブローバックがアホほど遅い。

 コンマ数秒空けなきゃ次弾装填されないとか、完全にナメてやがる。欠陥兵器め。


 あんまりノロいから、三発で嫌気が差して投げ捨てた。

 俺の足より遥かに遅い飛び道具とか、存在価値を疑う。


「で、当然防ぐわな」


 三発とも手足で払い、反撃の機銃掃射。

 足元を踏み付け、生じた衝撃波で全弾余さず払い飛ばす。

 また右脚がイカレたよ。脆い。


「人体の可動域を外れた動き。機械義肢だな」


 俺みたく全身に糸を張り巡らせ、脱臼や靭帯損傷を無視して操ってる可能性もあるが、機械義肢なら空間圧縮機構を随所に仕込み、多様な物品を隠し持つ芸も容易い。向こうさんの戦闘スタイルを鑑みれば、そっちの線が濃厚だろう。

 ついでに言えば俺と同じ改造を施した奴とか、他に見たことねぇし。


「ガードは自動オートか。手品のタネも割れちまえば陳腐なもんだ」


 身体能力も反応速度も『深度・弐』を使った俺の半分未満。

 にも拘らず、素早く正確な防御が能っていたカラクリ。


 そして、滅多矢鱈に頑丈なスーツの仕組みも理解した。


「衝撃が内側まで貫通とおらねぇ。強度云々で片付けるには度を越してる」


 ぶつけられた運動エネルギーを吸収、若しくは拡散する特殊兵装。

 要は以前ヒルダが使ってた吸撃の盾に近いシステム。


「随分と金の掛かった一式だ。相当デカいバックが居なきゃ、そうそう用立てられんぜ」


 吸撃の盾と違い反射機能を備えていない分、構造がシンプル化され、純粋に強度限界が高いのだろう。

 だが。


「殴る蹴るの暴行を加え続けりゃ、そのうちブッ壊れる」


 極超音速。

 更地の空中で身動き取れない獲物を、射程内に収める。


「お。サンキュー」


 此方を迎撃すべく再び袖口から刀剣を伸ばしたので、両手に一本ずつ借用。


「ハハッハァ」


 ──まずは千回くらい、斬り刻んでみるか。





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