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 ──まるで曲芸師のような奴だ。


 変幻自在、縦横無尽。

 軽快かつ柔軟に動き回り、手を替え品を替え、無数の攻撃手段で以て絶えず途切れずコンボを繋ぎやがる。

 格ゲーの害悪キャラかよ。


「シィッ!」


 蹴撃。掌で受け止められる。

 殴打。やけに硬いスーツで阻まれ、逆に俺の拳が砕ける。


「おォ」


 顔面、特に眼球を狙ったノータイムの吐炎。

 総身之武器ってか。ウケる。


「ハハッ!」


 手を叩き、風圧と衝撃で火を掻き消す。

 その間隙を狙われ、脇腹に突き刺さるナイフ。


「蛇型クリーチャー由来の毒か」


 悪いが俺には効かねぇぞ。


 刺創部の筋肉を締め上げ、ナイフが抜けないよう固定。

 回収は無理と踏んだのか、飛び退く敵サン。


 よし武器ゲット。有難い。

 何しろ『深度・弐』状態の『豪血』で一定以上に力を篭めて殴ったり蹴ったりすると、こっちの手足がイカレちまう。

 俺の『双血』使用比率は『豪血』に偏ってるからな。使う度、過負荷を経ての超回復で高まり続ける身体能力に肉体強度が追い付いてねぇ。


 もうちょい『鉄血』を多用して、硬さの方も鍛えないと駄目かね。

 いちいち骨が折れて威力が殺される。鬱陶しい。


 にしても。


「やるじゃない」


 攻防速、全てハイレベル。

 難度八のダンジョンボスともサシで互角以上に渡り合えよう戦闘能力。


 少なくとも、青木ヶ原天獄に挑んだ時の俺よりは確実に強い。

 近い実力者を挙げるなら、一桁シングルランカー交流会の時に闘り合った、Dランキング現八位のメイウェイあたりだろう。

 ガチに殺す気で来てる分、こっちの方が骨太だが。


「およそ突発的エンカウントで出くわしていい相手じゃねーなオイ」


 どこの誰か知らんけど、このクラスは世界に数十人も居ない筈。

 何気無く引いた無料ガチャでSSR当てた気分だ。

 たーのしー。


 …………。

 それだけに余計、名残惜しい。

 胸躍る一時とは何故、瞬く間に過ぎ去ってしまうのか。


「全容の掌握、並びに有用技術の奪掠──終了」


 所要時間、近接戦開始から約七秒。

 認識を狂わされてたお陰で、思ったよりは長く楽しめたな。





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