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 速度は重さ。

 音より百倍、速い蹴り。


 けれど。


「ハハッ」


 伴う衝撃波ごと防ぎやがった。くたばりやがれキック。

 リゼの攻撃で例えるところの、気付けネコパンチに相当するコマンドアクションを。


「……ン?」


 ちょっと待て。あの女、つまり俺が『魅了チャーム』食らう都度、必殺技ぶつけてやがったのか。

 まともに貰えば、プロボクサーどころか一桁台階層のクリーチャーくらいなら普通に死ぬぞ。気付けネコパンチ。






「お」


 スーツの護りゆえか、やたら硬い右腕で俺の蹴りを受け流し、返す刀でサマーソルト。


 スウェーバックにて躱す最中、革靴の爪先から飛び出した鋭い刃。

 喉笛狙いの正確な太刀筋。やりおる。


「鉄血」


 一旦『豪血』の深度を下げ、続け様『鉄血』へと切替。

 静脈に青光を灯し、肌も肉も骨も腑も余さず硬化させた肉体で、強度任せに迎え撃つ。


 甲高く鳴り渡る金属音。

 接触の瞬間、体軸をズラしてやったことで、切っ尖は呆気なく砕け散る。


 が。相手側に動揺は無く、攻勢も緩まない。

 こっちは口角が緩みそうだ。


「いいぞ」


 次なる攻めは、ムーンサルトで上下逆さになった体勢より放たれる裏拳。

 身体を捻り、背中で死角を作った不慮の一撃。


 しかも、あんなタイトスーツの何処に仕込んでいたのか、インパクトに合わせて六本の刀剣が袖口から伸びる始末。

 何らかのスキルか、或いは空間圧縮ポケットでも裏地に縫い込んでるのか。


「面白れぇ」


 迫る刀剣群は、それぞれが業物。刃筋も勢いも申し分無し。

 こりゃ『深度・壱』だと斬られるな。


「――『深度・弐』――」


 すかさず深化。重ねて手刀一閃。

 衝突。膠着。火花が八方を舞う。


「さあ次はどうする」


 同時に五本も六本も刀剣を振り回せば、各々の威力が無駄に分散する。

 つまり派手なばかりで非効率。決定打足り得ない。


 遵って、今のは此方の意識を引き寄せるための

 手品と同じ理屈だ。本命は他に用意されてる筈。


 ――なーんて。おぉ白々しい。


 如何に認識を狂わせてきたところで、完全索敵領域内に捉えた相手の所作など丸裸。

 目論見は、既に掌握済み。


「火か」


 開かれた口腔。喉に集約する属性エレメンタル


 鉄も容易く溶かすであろう高温の青炎が、辺り一面を舐め上げた。





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