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「豪血――」
アスファルトを砕いてしまわぬ程度に跳び、宙を駆け、街を一望出来る高さへと至る。
「――『深度・弐』――」
深化により更なる乗算を重ね、人域を外れた肉体性能。
そして、過ぎたる力の代償。樹鉄刀の内在エネルギーを取り込めない分も含め、ごっそりと血を削られる。
だがまあ、些事だ。
「オン・ユア・マークス」
爆撃に等しい威力で、刹那のうちに四度、虚空を蹴る。
右脚の骨が三ヶ所ばかり砕けたが、やはり些事。
アラクネの粘糸を絞り、折れた部位を元通りの形に固定すれば、何の問題も無い。
「セット」
極超音速にて、示された座標へ直進……しても良かったのだが、特に意味も無く、滅茶苦茶な軌道で跳ね回りつつ接近。
動体視力や反応速度も研ぎ上がる特性の恩恵を受け、この速度でも静止状態同然に視界は拓かれている。
尤も、視えなきゃ視えないなりに取れる手段くらい幾らでも思い付くから、結局なんでも構わんのだが。
「見ぃ、つけ、たァ」
深度を弐としたことで、範囲も精度も平時とは比較にならん次元へと至った完全索敵領域。
博士殿、6TH、庵の三名が乗った車両を確認。
併せ――彼等に向け遣られた意識を、手繰る。
「敵意無し。殺意無し。害意無し。悪意無し。ナイス隠形、花丸を差し上げよう」
気配の消し方や溶け込み方だけでも、相当な力の持ち主と分かる。
高まる期待。加速する肢体。狭まる彼我の距離。
――間合いに、捉えた。
「ハハッハァ」
網目が如く市街地を張り巡る電線。その一本を足場とした人影。
つくりの良いスーツ姿。しかし妙に認識がブレて全体像を掴み辛く、男か女かさえ判別つかん。
恐らく、前に俺が使ってたクネクネのフードと似た性質を持つ装身具を帯びている。
あのスーツも十中八九、深層クラスのドロップ品を素材に使ったものだろう。見てくれより遥かに防御力は高い筈。
尚、かく言う俺も、あちこちのダンジョンを回った際の副産物をメーカーに持ち込み、仕立てさせた衣服一式を着用中。
つーか、それくらいでもなければ超音速移動の際に生じる諸々で瞬く間にオシャカだ。
全裸の変質者にクラスチェンジとか、流石にノーセンキュー。
――と。そんな話は、さておき。
「よォ。ハジメマシテ」
まずは挨拶。コミュニケーションに於ける基本中の基本の基。
からの。
「くたばりやがれキック」
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