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「済まないけど、さっきu-aが言ったことは忘れて貰えるかな。私達の長姉はブラックなジョークが好きなんだ、困るよアハハ」

「むーむー」


 ダクトテープで身動き取れなくなるほど拘束しといて、その言い訳は苦しいぞ。


 されど、敢えて追求する必要もあるまい。

 俺はエアーリーディング検定十級の男。延いてはヒューマニズムを尊ぶ紳士ゆえ。


「心配するな、今は多様性の時代だ。奴隷落ち妄想とかするようなド変態でも、世間は受け容れる」

「……………………うん。そうだね、ありがとう」


 我ながらナイスフォロー。

 自分で自分の才能が怖い。






「ド変態って思われた……死のう……」


 何故か部屋の隅で膝を抱え始めたLza。

 よく分からんが放っておこう。きっと、そういう気分なんだろう。

 どういう気分だよ。


「チョコレート食べるか?」

「あ、ありがとう、お兄ちゃんっ」


 対リゼ用に常時携帯する菓子類から適当なものを見繕い、Λ嬢に渡す。

 たどたどしい仕草で少しずつ頬張る姿は、どこか小動物を想起させて面白い。


 尚、俺という男は基本、動物に懐かれない。大体が逃げられるか唸られるかの二択だ。

 畜生共には此方の姿が怪物か何かに映るらしい。失敬な話だ。






「むーむー、むー」


 暫くΛ嬢と歓談に耽っていたら、急にu-aが呻き始めた。

 なんだなんだと思いつつ、ひとまず口元のダクトテープを剥がし取る。


「……もっと優しく扱うべきかと。乙女の唇を何と心得ているのですか」

「減らず口の出力にリソース割り振ったパーツなら、このくらいが妥当だろうよ」


 睨まれた。

 次いで、体内ナノマシン越しに座標データが転送される。


「四十五秒以内に、そこまで行って下さい」

「あァ? 客に使い走りさせんのかよ、控えめに申し上げて常識を疑うぜ」


 しかも指定場所、ここから十キロくらい離れてるし。

 それを四十五秒とか。邪智暴虐の王様だって、もう少し猶予くれるぞオイ。


「ざっけんな。実に安い用だが御免被る」


 俺を顎で使っても許されるのは、恩義ある甘木くんか、その妹つむぎちゃんか、百歩譲ってリゼ――


「父様達が襲撃を受けます」


 マジかよセンセー。


「相手は単騎。けれど相当な手練れ」


 マジかよセンセー、パートツー。

 さては貴様。そいつを見越して今日、俺を招きやがったな。


「貴方に分かり易くダンジョンの難度で示せば、八以上は確実かと」


 パートスリー。


「エクセレント! 勿体ぶりやがって、演出家め!」


 そういうことは、もっと早く言いなさい。

 よーし、お急ぎ便で駆け付けちゃうぞー。





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