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「粗茶です」


 ガラステーブルに置かれた湯呑みと、クッキーが数枚並んだ皿。

 いや組み合わせ。何これ嫌がらせ?

 判断に困る微妙なライン。却って悪質。


「ところで貴方、何故Λを膝に乗せているのですか」

「ふえぇ」


 なんとなく収まりが良くて。






「ほう」


 差し出された手の表面をなぞる。

 指先で軽く掌を叩き、跳ね返った音を聴く。


「血管、神経、筋肉、腱、骨格。ほぼ完璧な配列」


 現行の機械義肢と比べても、構造の精巧さは段違い。

 精密機械と言うより、半ば工芸品の域。


 驚くべきことに、ナノマシンを用いて細胞分裂の真似事までやってやがる。

 擦り傷くらいなら勝手に治るぞ、このロボット達。


「大したもんだ。無駄に」


 ぶっちゃけ、ここまで人体へと寄せる理由が逆に分からん。

 どうせならロケットパンチ仕込むとか、便利ツール内蔵するとか、パイルバンカー取り付けられるようにするとか、ロケットパンチ仕込むとか、あるだろ他にも色々。


 まずは仕込めよ、ロケットパンチ。

 ヒルダは出来るぞ、ロケットパンチ。


「体温、質感、反射運動……仕事が細か過ぎるな、お前さん達を造った博士殿は」

「っ……そ、その……手柔らかに頼むよ……マスター以外の殿方に触れられるのは、初めてなんだ……」


 端の震えた、か細い声音。

 さっきまでの余裕ぶった態度は、いずこ。


「「触ってみるかい?」とか言い出したの、そっちじゃねぇか」

「いや、まさか本当にやるとは思わなくて……」


 シンギュラリティ・ガールズ三女、Lza。

 マニッシュな立ち居振る舞いと甘掠れたハスキーボイスで、女性人気鷲掴みな王子系。


 嫌いじゃないですよ、こういうタイプ。


「ちょーっと、顔を良く見せてくれ」

「みゅっ」


 顎に手を添え、俯き気味だった面を持ち上げる。


 短めのウルフカット。長い睫毛。繊細に化粧を施した、人類トップクラスだろう顔面偏差値。

 あらやだ可愛い。まあ人工品だし、造形に秀でてるのは当たり前か。


「ッ……ッッ……!!」


 目を見開いて硬直し、見る見る赤くなって行くLza。男性免疫ゼロかよ。

 しかし本当に良く作り込まれてるな。眼球運動まで素晴らしくリアルだ。

 ……レーザーとか出ないんだろうか。


「やめなさいケダモノ」


 まじまじ観察に勤しんでたら、無理矢理u-aに引き離された。


「何しやがる」

「Lzaは揶揄う側が専門で、逆の立場に慣れていません。ガラスの剣なのです」


 はあ。


「ついでに言うと本質的にはマゾヒストゆえ、貴方のような手合いは傍に居るだけで黄色信号。力尽くで組み伏せられたい被虐願望の刺激は控えて下さい」


 属性の渋滞が凄い。

 同じボーイッシュでも、支配者側に立つヒルダとは対極的。


「な、ちょ、u-a!? デタラメ言わないでくれる!?」

「事実を申し上げたまでですが。隠さずとも貴女がライト調教系の各種媒体作品を多数隠し持っていることは、姉妹全員周知――」

「わああああああああ!!」


 更に余計な情報を口走り始めたu-aを、山猫さながらな俊敏さで止めにかかるLza。


 まあ自分の性癖暴露されりゃ、誰だってそうするわな。

 同情。





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