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「今をときめくスター様方の御自宅って割には、少々デカいだけで普通の家だな」
カタカナ多めな肩書き持ちの意識高い系が建てた、オンリーワン路線に突っ走ったデザイナーズハウスみたいなのを想像してたんだが。
「数ある拠点のひとつです。世界各地を巡るに際し、あちこちに腰掛を据えておいた方が何かと便利ゆえ」
「ホテルで良くね?」
「私達のメンテナンス設備は、運搬するとなると大型トラックの一台や二台では間に合いませんので」
圧縮空間は一部の精密機械と相性が悪い。
それだけの質量を原寸で運ぶ手間、いちいち現地で組み立てたりバラしたりなんかのロスを考えれば、確かに予め拠点をバラ撒いた方が効率的か。
「アホほどコストかかりそうだな」
「問題ありません。父様は株価変動、為替相場、金相場、各種ドロップ品相場、宝くじの当選番号や公営競技のレース結果に至るまで、向こう半世紀分の経済情報一切を握っていますから」
ウケる。
「ただいま戻りました」
「邪魔するぜー」
四種類の電子ロックが掛かった二重扉を解錠したu-aに続く形で、屋内へ踏み入る。
日当たり良く、掃除も行き届いた玄関。
真新しい来客用スリッパを履き、埃ひとつ落ちていない廊下を歩く。
「生活感のねぇ家だな」
「腰掛と申し上げたでしょう。本居以外は大体こんなものです」
成程。
「父様及び6THと庵は七十二分後に帰宅予定。LzaとΛは応接間に集まっていますので、其方に案内――」
床板を痛めない程度の踏み込みでバックステップ。
数秒前、通り過ぎたインテリア用シェルフの脇に隠れていた小さな影を抱え上げる。
「ひゃうっ!?」
「ハハッハァ。早速キャプチャーしたぜ」
女性の中では上背に恵まれたリゼやヒルダは勿論、スキル非発動時のつむぎちゃんよりも更に小柄なシルエット。
「あうあうあうあう」
突然の出来事に対応が追い付かず、わたわたと俺の手中でテンパる、ちみっ子。
「こんにちはレディ。俺を覚えておいでかな?」
高い高い状態で此方を見下ろし、こくこくと繰り返し頷く……あー、そう、Λ。
一瞬名前が思い出せず、咄嗟にレディと呼んだのは我ながらナイス機転。
「脅かそうとでもしてたのか? 外見に似合わず、お茶目さんですねぇ」
「ち、違っ……あの、あのね。ラムダ、お兄ちゃんに、いらっしゃいませしたくて……」
そいつは殊勝な心がけ。しかし聞く耳持ちませぬ。
取り敢えず、肩車で御同行願おうか。鹵獲だ鹵獲。
「……チッ」
u-aさんてば、何故に舌打ち。
しかも俺だけに聴こえるぐらいのピンポイントな音量で。
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