514・Rize
「ふあ……」
ファミレスの窓際で頬杖つきながら、小さく欠伸。
向かいでステーキを切り分けてたヒルデガルドが、私を見る。
「眠いの? 膝貸そうか?」
「遠慮しとくわ。アンタだと『消穢』で弾きそう」
「ひどい」
だって視線とか邪だし。
「友達なのに」
「はいはいトモダチトモダチ」
「ツキヒコ相手なら胸揉まれたって弾かないくせに」
世間イコール不公平。
人間イコール不平等。
「そう言えばツキヒコどこ行ったの?」
「今、川崎あたりね」
少し意識を尖らせれば、私のチカラを通わせた粘糸が全身に巡ったアイツの居所は大体分かる。
その座標に『ナスカの絵描き』と『ベルダンディーの後押し』で視点を送れば、リアルタイムな動向の確認も可能。
やらないけど。めんどくさいし、意外と疲れるし、わざわざ覗き見する趣味も無いし。
「カワサキ? 何しに? 面白いこと?」
矢継ぎ早な質問攻め、キライ。
「他所の女のとこよ。例のロボ子」
「カルパッチョ」
意味不明な誤訳。
即時翻訳機の精度は年々上がってるけど、やっぱりまだまだ完璧ではない。
「リゼって、そういうの気にしないよね」
なんなの藪から棒に。
「普通は自分の男が別の女と……みたいなシチュエーション、それなりに思うところがあって然るべきだと」
…………。
はぁ?
「そんなのアイツの勝手でしょ」
ペットじゃないんだから。
「僕だったら恋人が不貞を働こうものなら目玉を刳り貫くけど。何個かホルマリンに漬けて飾ってあるよ」
一度、精神科で診て貰うべきね。
「自分はハーレム主義のくせに」
「僕は許されるの。僕だし」
へらりと笑ってナチュラルに傲岸不遜。
身勝手極まれり。
「いつか捕まるわよ」
「お金と暴力で揉み消すから平気だもん」
五分もコイツと話せば、チームを追い出され続けた経歴も得心が行く。
いくら能力が高くとも人格面の問題が大き過ぎて、トータルでマイナス判定確実。
……まあ、それは置いといて。
「月彦は月彦なりのルールを自分に課して、いつも何かを我慢してるわ」
しかも概ねが私のため。
「そんな奴を、こっちの都合で更に縛り付けるとか、どんな恥知らず?」
己の命すら尊ばない行為に最低限の歯止めをかけることはあっても、それだけ。
そもそも。
「有象無象に目くじら立てても肩こるだけよ。ノット酔狂」
「うぞーむぞー」
気の抜けるようなオウム返し。
変なことを言ったつもりは無いけど。
「だって、そうでしょ?」
私より頭の良い女なんて幾らでも居る。
私より強い女も、私より綺麗な女も、少しは居る。
月彦と並び立てる女も、月彦に寄り添える女も、何人かは居るかも知れない。
――でも。
「アイツの方から寄り添ってくれる女は、世界中探したって私しか居ないもの」
「すごい自信」
単純に事実を語ったまでよ。
そんなことより、お腹すいた。
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