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「乗って下さい」


 コインパーキングに停まった車を指し、そう促すu-a。


「へえ。ロボットでも免許取れる時代になったんだな」

「正しくは有機無機複合アンドロイドです」


 細かい奴め。

 なんでもいいだろ。ニュアンスが伝われば。


「前々より指摘しそびれていましたが、私達は躯体が人工物というだけで、確かな人格と感情を備えた純然たる一生命。差別的な物言いには、モラルある御配慮を」


 ロボットて差別用語なん?

 あれか。語源が強制労働から来てるとか、そんなノリか。


 つか個人的には、差別差別うるさい輩こそ一番そういう意識で凝り固まってると思う。

 俗に言う鏡見ろや理論。


「そして免許は持っていません。私の場合、法律上は自動運転と同じ定義で扱われます」

「やっぱりロボットじゃねぇか」

「はい」


 あっさり認めたよ。差別云々の話は一体なんだったんだ。

 さてはコイツ、ただ俺に難癖つけたいだけだな。このやろう。






「こちらをどうぞ、ろくでなし」

「あァ?」


 運転中のu-aから空手を差し出される。

 軽く掴むと握り返され、体内ナノマシンを介して送られたデータが網膜に映り込んだ。


「私達姉妹の簡単なプロフィールです。着くまでに覚えて下さい鳥頭」


 テスト十分前の中学生か、俺は。

 あと、ちょいちょい語尾に罵倒織り込むのヤメロ。


「くれぐれも妹達の名前を間違えるなどのクソボケは仕出かさないよう」

「ハッ。要らん心配だ」


 記憶力には自信がある。

 二千ピースの真っ白なジグソーパズルだって、予め完成品を一瞥しておけば、ピースの形を全部覚えて九十秒フラットにて組み上げ可能。勿論『豪血』無しで。


 初めてやった時、これギネスいけるかもとか思ったものの、調べたら三十七秒のレコードを持つバケモノが居た。

 てかカルメン女史だった。証拠動画を見たが、殆ど神懸かりな知能と指先の持ち主だぜ大叔母様。


 閑話休題。


「では第一問。私達のグループ名は?」


 ナメてんのか。こちとら東武伊勢崎線の駅名も余裕で諳んじられるぞコラ。


「――シンジケート・スパイス」

「シンギュラリティ・ガールズです」


 それよ。


「語頭の響きだけ寄せておけば誤魔化せるだろう的な、失笑クラスに見積もりの甘い姿勢は改めるべきかと」


 ぐうの音も出ん。

 いや。ここは敢えて、せめて、ぐうの音くらい出しておくべきか。


「ぐう」

「負け惜しみを吐くなら吐くで、もう少しマシな選択肢など無数にあったでしょうホワイトレグホン」


 誰がニワトリだ。

 ヒヨコのオスメスを延々と仕分け続ける虚無なバイトやらせるぞ貴様。





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