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勉強のストレスで愚図り始めたリゼをあやしていたら、出るのが遅くなってしまった。
まあ、甘いものと引き換えで指定場所の近くまで道を繋いで貰ったし、収支的には寧ろプラスと考えて問題なかろう。
「よォ」
雑踏の隙間。大通りの片隅。
ショーウィンドウのガラスを鏡代わり、身嗜みを整えていたu-aの横合いに立つ。
「なかなか洒落てるじゃねーの。スパイごっこか?」
自然に顔を隠すためだろう、サングラスとキャスケット。
曰く『ミステリアスなクールビューティー』で通った世間一般のイメージとは相反した、活動的なボーイッシュ系の装い。
日頃からの変装慣れが窺える。
「……随分、容易く見付けるのですね。既に視た流れとは言え、些か驚きを覚えます」
範囲内の遍くを網羅してこその完全索敵領域。
それに。
「お前の駆動音は特に分かり易い」
事象革命以前と比較し、あらゆる技術が一足飛びの躍進を遂げた今の御時世、ヒルダのように機械義肢を使う者も珍しくない。
なんなら理想の美腕や脚線美を得んがため、自ら手足を落とすという酔狂話も聞くほど。
ヒルダの義手は戦闘仕様の特注品で大型クルーザー並みに高いが、日常生活向けの汎用モデルなら中古車くらいの値で買えるし。
ただ、地元じゃ改造によって出力リミッターをカットしてる奴も割と居た。
勿論のこと違法。もし壊れても保険適用外。
即ち俺が小中高時代、名前どころか顔も忘れた奴等に与えた機械義肢の被害総額は、軽く数千万を回る計算。
図らずも経済活動の一助を担っていたとは流石俺。さす俺。
「良い音色だ。冒涜と礼讃の入り混じったグルーヴを感じるぜ」
「意味が分かりません」
「安心しろ、自分でも言っててワケ分からん」
外観や動きの滑らかさこそ生身と相違無いものの、人工筋肉が奏でる音は独特ゆえ、俺の聴力なら瞭然。
有機素材と機械部品が入り混じったu-aの場合、そいつが殊更に顕著。
「砕けば、さぞ快音が鳴るんだろうなァ」
「ポリスメンを呼んで差し上げましょうか?」
勘弁しろ。ギャグだよギャグ。
少なくとも半分は。
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