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大学生活最後の夏休みが間近となり、隕石騒ぎの後始末も落ち着き始めた今日この頃。
やれ内定が取れないだの、やれ単位が足りないだのと辛気臭いオーラ漂う俗世を離れ、自宅で寛ぎ中だった俺の元に見知らぬ番号からの電話が届く。
「――取材関係なら断固拒否だ。迷惑電話なら相応の覚悟を済ませとけ。こちとら発信先くらい触覚頼みに電波を辿って割り出せる。世界中どこに居ようがマッハ五百で叩きのめしに――」
〔約束を果たしなさい。カノウモビックリミトキハニドビックリササキリモドキ〕
最長の和名を持つ虫の名前で罵倒されたのとか、恐らく人生初。
もしかすると人類初かも知れん。
「そんなこんなで出掛けてくる」
「単位稼ぎに必死な私を置いて、どこ行く気」
四つの空間投影ディスプレイを同時展開させ、課題へと取り組んでいたリゼに睨まれる。
まだ卒業要件に届いてなかったのかよ。
「あと幾つ足りねーんだ」
「ジャスト二十」
嘘だろセンセー。
そも今の時期に単位云々で頭抱えてる奴とか、計画性って言葉を辞書引いて調べた方がいいぞ。
「三年の終わりまでで残り十単位くらいにしとくのがジョーシキだろ」
「…………」
溜息混じりに告げたら、やけに緩慢な所作で、ちょいちょい手招きを受ける。
なんぞや、と無警戒に近寄ったところ、アシダカグモが如き俊敏さで捕獲された。
「……アンタに正論を説かれると、普通の百倍くらい屈辱なのよね」
失礼が過ぎる。
「大体なんでアンタは普通に単位取り終わってるの。自分のキャラクター性に沿った行動をしなさいよ放縦不羈」
だって簡単だし。
「学業と
アジャラカモクレンが何を示す単語なのかは、寡聞にして知らんけども。
「……つまり私を、そうだと言いたいワケ。なるほどなるほど、リゼさんは怒りました」
馬乗りに押し倒され、黒塗りの十爪が胸元に突き立つ。
多情入り混じった色合いを醸し出す視線が、至近距離で俺を見据える。
「『
完全索敵領域の内に在りて尚、霞み薄らぐ存在感。
両腕が胸中へ沈み、そのまま魂を掴まれる。
「歯型か爪痕でも付けてやろうかしら。謝るなら今のうちよ」
ほう、そいつは興味深い。
是非やってみたまえ。
「噛むわよ」
「噛んでみろ」
「引っ掻くわよ」
「引っ掻いてみろ」
何故、段々と困り顔になるんだ。
「……あーやーまーりーなーさーいーよー」
「ええい、分かった分かった。俺が悪かったから、撫で回すのやめろ」
魂の直触りは、滅茶苦茶くすぐったい。
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