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〔テレビの前の皆様! 地球は! 地球は、救われましたっ!〕
渋谷スクランブル交差点を見下ろす形で据えられた、巨大な空間投影ディスプレイ。
立体映像のニュースキャスターが、顔面を涙と鼻水に塗れさせながら、声高に叫んでる。
「おーおー、大袈裟な野郎だ」
赫く灼けた繊竹の吐き出す白煙が、周囲一帯を覆い尽くす。
この熱気だけで、常人なら肺まで爛れるだろう。
けれど青光伝う『鉄血』により臓腑すら鋼鉄を遥かに凌ぐ硬度へと達し、延いては金属と同様の性質を得た俺の五体は、溶鉱炉でスイミングを敢行しようが無事。
金属質ゆえ低温も高温も毒も酸も効果薄く、生体ゆえ錆びることも腐食することも無い。
難があるとすれば、呪詛……呪毒の類か。
スロット移植の後遺症、魂の強度を僅かに落とす傷痕の影響も手伝い、そっち系の攻撃は些か防ぎ辛い。
尤も、それとて女隷が殆ど無効化に近いレベルの耐性を持ってるが。
リゼ級の呪詛使いでもなければ、俺を呪いで害すことは不可能と言えよう。
第一『呪胎告知』や『呪血』のような物理的ダメージを直接与えるものなら兎も角、精神を蝕む苦痛なぞに、そもそも何の意味があるのか。
痛みで苦しむって感覚自体、俺にはイマイチ分からんし。
「ヘイ、リゼちー。
〔コアラを背負ったパンダが歩いてるわね〕
オーストラリアに野生のパンダは居ねぇ。筈。
「……あー。すぐ戻れそうか?」
〔無理。今さっき『宙絶』を
何故素直に『次元斬』を使わないのか。
ま、あんなもん地球上でブッ放したら、隕石衝突よか酷い事態になるのは目に見えてるけども。
〔お腹すいた……オムライス食べたい……〕
「生憎と七千キロも離れてるんだ。俺には何もしてやれんぞ」
〔じゃあ帰る〕
スマホ越しの投げ遣りな口舌。
その数拍後、俺の頭上で空間が罅割れる。
繋がった二点の境目から、力無く落ちて来たリゼ。
姫抱きに受け止めると、赤い眼差しが此方を見上げた。
「オムライス。卵が半熟でトロトロのやつ」
「分かった分かった」
とは言え、ここは渋谷。自宅との距離、概ね百キロ少々。
しかも隕石騒ぎで、どの店も開いちゃいない。
「……やむを得ん。適当な飯屋のシャッター抉じ開けて、キッチン借りるか」
「おーなーかーすーいーたー」
つかアレだな。地球は終わるんだー、みたいなことを叫び倒して全裸で走り回ってた奴とか、明日からどんな顔で生きて行くんだろうな。
頑張れ。
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