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手早く掃除を済ませた後、本当にサ店で一服決め込んでたら割と時間ギリギリになってしまった。
「いっそフケるかね。改めて考えりゃ俺がライブなんぞ観に行く理由ねーし」
おっとスマホに着信。
「ハローCQ、こちら月彦」
〔開始時刻ジャストまでに貴方が指定席に着いていなかった場合、私達は引き上げます〕
…………。
え、怖っ。
来なけりゃ帰ると脅されては、言葉の真偽がどうあれ足を運ばぬワケにも行くまい。
面倒だなーと肩を落としつつ、u-aに押し付けられたチケットを受付で提示し、席まで案内を受ける。
「最前列、しかもド真ん中かよ」
まさかライブ中、俺が寝ないよう見張る算段か。
すこぶる厄介だな、未来予知能力者ってのは。
――などと考えていた最中、明かりが落ちる。
騒がしかった雰囲気から一転、静まり返る場内。
そして。ステージ上に、スポットライトが降り注いだ。
計算され尽くした音響設定。
激しく緩急を刻む、疾走感に満ちた音楽。
それに合わせた、寸分乱れぬリズムとステップ。
声質も特色も五者五様の、けれど完璧な調和を描いた歌唱。
「やべぇ眠い」
入場からノーモーションで始まった序曲。
前奏、後奏含めて約五分間のフルコーラスを終え、五機が軽快に、整然と横並ぶ。
「ハーイ、オーディエンス! 6THだよ!」
カラフルな髪色、装飾の多い衣装、ラメ入りメイク。
一党の中でも特に派手な身形をしたギャル系こと6THが、早くも沸き立つホール内を制するように挨拶へ移る。
「今日は招待アリガト的な? 何気アタシ等ガッコとか来るのハジメテ系だから、ちょー新鮮!」
身振り手振りを交えたトーク。
予め知らなければ、延いては微かな駆動音が聴こえなければ、およそガイノイドと思えぬ感情表現。
世に出回る他のAIとは、段階を異にした完成度。
手を選ばず欲しがる輩が絶えないのも、まあ頷ける。
仮に、あいつ等の躯体が有す特性――構成素材の全てがダンジョン由来ゆえ、ゲートを通れるという事実が公然となれば、更なる激化を辿るだろう。
「兵器化の上で量産すりゃ、この業界が抱える人材不足を一挙解決も可能、か」
対費用効果が釣り合うか知らんけども。
どうあれ、俺に関わり無い話だ。
「まだ発表してないナンバーも引っ提げて来たし、盛り上がってこー!」
会場中から迸る歓声。
殆ど音響兵器。ガラスとか割れそう。
てか今、どっかで割れた。
「ね!」
ふと6THと目が合い、ウインクを飛ばされる。
両隣の奴に誤爆し、奇声と共に失神した。
衛生兵求む。
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