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「むーっ! むーっ!」

「ひとまず、これで良かろう」


 リゼから借りた停戦の鎖、奇剣ソードラインでヒルダを縛り、体育館のバザーで売ってた棺桶を買い上げ、中に放り込む。

 あとは俺が背負って運べば、そうそう軽率な真似も出来まい。


「知り合いが迷惑かけたな甘木くん。吉田のバカが土下座するんで勘弁してやってくれ」

「任せておくんなまし! 俺ちゃん、土下座には一家言ある系男子! 人呼んで世紀のゲザリスト!」


 そりゃ初耳だ。

 さっさとゲザれよ、ゲザリスト。


「いえ、あの、ホント大丈夫なんで……やめて下さい、土下座とか……」


 却って迷惑そうな空気を出されたので、即やめさせた。






「よっしゃよっしゃ! せめて俺ちゃん、甘木っちに昼飯ご馳走させて欲しいぽよ! 向こうで駅前の美味いラーメン屋が屋台出してたから食いに行こーぜー!」

「え、ちょ、わああぁぁぁぁ――」


 ドップラー効果を伴う悲鳴と共に誘拐された甘木くん。


 まあ、吉田はアホだが一緒に居て退屈はしないタイプのアホだ。

 悪いようにはならんだろうと断じ、ひらひら手を振って見送った。






 昼時を過ぎた頃合。周囲の雰囲気が、あからさまに浮つき始める。


「急に人が増えたな」


 押し合い、へし合い。

 学校敷地内の随所に設置された空間投影ディスプレイを巡る、熾烈な場所取り。

 チケットを手に入れられなかった負け犬共が繰り広げる、見苦しさ満載なバーリトゥード。


「情操教育に悪い。いや、反面教師と捉えれば寧ろ適切な教材か」


 会場であるところのホール周辺など、ゾンビ映画のショッピングモールが如し有様。


 立ち見でいいから入れてくれと喚き散らす程度なら、だいぶマシ。

 受付に並ぶ者を捕まえ、チケットの売却や譲渡を脅迫同然に頼み込む輩の多いこと。


「民度」


 正味、乱闘騒ぎの二歩手前。

 警備員を倍、万全を期すなら三倍雇うべきだったな。

 もし生徒と招待客と一般客とで入口を分けてなかったら、更に目も当てられん事態に及んでいただろう。


「どんだけ人気だ、シングルマザー・ガードナー」

「シンギュラリティ・ガールズですよ?」


 ありがとう、つむぎちゃん。


 …………。

 実は俺の手元に一枚、チケットが余っていたりする。


「ぅるる」


 こいつを投げ込んだら果たしてどうなるのか。超やってみたい。

 けれど、つむぎちゃんが側に居る現状、そのような蛮行――


「あ……月彦さん。私、そろそろクラスの方に集まらなきゃ」

「そうか。人混みに気を付けてな」

「はいっ」


 小走りで駆けて行く背中を、暫し視線で追う。


 ――さて。


「レッツ・プラクティス」





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