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 そばそばそば、と焼きそばを食らう。


 うむ。チープな味わいのソースに焦げかけた野菜のアクセントがベストマッチ。

 こういうのでいいんだよ、こういうので。リゼにも買って帰ってやろう。


「ねえキチダ。このリンゴ飴って、どう齧り付くのが正しい作法なのかな」

「実は俺ちゃんも初めて見るナリ。んん……よし! 取り敢えず振ろう! ミュージック・スタート!」


 各々両手にリンゴ飴を握り締め、サンバのリズムで振り回すヒルダと吉田を発見。


 これは奇遇。しかし奴等、他県の学祭で何やってんだ。

 知らんフリしとこ。






「ふむ」


 視線は動かさず、識覚のみ八方に巡らせる。


 ちらほら向けられる傾注。

 割合としては、一般の来客者よりも生徒が大多数を占める。


「ふむふむ」

「月彦さん、どうかしましたか?」


 いいや別に。

 ただ、やはりと言うか。


「君は随分モテるんだな」

「?」


 小首を傾げて返された。

 無自覚とは恐れ入る。そりゃ友達も過保護になるってもんだ。






 校舎内の方は、生徒主催の出し物が大半だった。

 郷土史コーナーとか、図画工作の展示とか。この辺は俺がイメージする学園祭に近い雰囲気だ。


「つむぎちゃんのとこは何を?」

「自由課題の作品を飾ってあります。プラモデルのジオラマとか、自作のパソコンとか」


 レベル高けーなオイ。


「折角だ。覗いてくかな」

「ふえ!? え、あ、や、あのそのえっと、確かにそういう選択肢は無きにしも非ずなんですけど、敢えてスルーするみたいなスタンスが最近のトレンドで――」


 近くだったし、行ってみた。

 今時の中学生て凄いのな。五分くらいの立体アニメーションとかあったぞ。


 特に目を引いたのが、壁に掛けられてたタペストリー。

 髪より細い糸を駆使した刺繍が凄まじく精微で、美術館に置かれてても違和感の無い出来栄えだった。

 絵柄は白い蜘蛛に灰髪の男という、今ひとつ題材の分からん代物だったけれど。






「やだ! やだやだやだ!」


 やたら俺を教室から引き離したがったつむぎちゃんのオススメスポット、彼女も属しているらしい園芸部の管理するフラワーガーデンを見物中、聞き覚えある声が耳朶を突く。

 フェンス越しに出所を探ると、ヒルダのアホが地面をのたうち回り、駄々をこねていた。


「なってよ! 僕のものになってよ! 一緒にドイツまで来てよ! 幾らでも払うから!」

「まーまーヒルダちゃん。フラレたもんは潔く諦めようぜ? なーに、出逢いは星の数ほどあるって!」


 まさか吉田の奴が人を諭す場面に出くわす日が来ようとは。

 明日あたり世界、滅ぶかも知れん。


「ヤダーッ! 欲しい欲しい欲しい、欲しいーッ!!」

「げ」

「あ、兄さん」


 絡まれている不幸人の顔を拝んでみれば、まさかの甘木くん。

 超絶困り顔な彼の脚に、ひしとしがみ付くヒルダ。

 ホント何やってんだ、あいつら。





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