496・閑話22






 戦闘系に属する異能の中でも、例えば『呪胎告知』『アラクネ』『ギルタブリル』などのように極めて攻撃性の強いものを、特定危険スキルと呼ぶ。

 日本含む幾つかの国に於いては、習得に際し警察機関へ届出をしなければならず、非公開情報への設定も禁じられている代物。


 ――それを、総ての人類に付す?


「リゼ、ヒルダ。社会を成り立たせる上で、最も重要なファクターは何だと思う?」

「あい! 縄跳び!」


 赤ら顔で立ち上がったヒルデガルド・アインホルンが、ぴょんぴょん跳び始める。


「俺が思うに、そいつは法を犯した者に対するペナルティの執行力」


 決め事を破れば、罰を受ける。

 そのルーティンを確実に遂行出来る力こそ枢軸だと、彼は謳った。


「つまり大多数の人間がイージス艦の一隻くらい沈められる程度の暴力を持てば、法は忽ち意味を失くす」

「成程。まあまあ説得力あるわね」

「ぴょん、ぴょんっ、ぴょーんっ」


 誰か酔っ払いの相手をしてあげて。


「異能の氾濫による秩序崩壊。事象革命直後に問題視された終末絵図のひとつだ」


 …………。


「尤も現代じゃ、殆ど杞憂扱いだが」


 危険指定されるほど強いチカラは、数万とも数十万とも数百万とも知れない母数を擁すスキル群の中でも、ごく僅か。

 加え、ほぼ全てがランダム式のスキルペーパーからしか得られない。

 そのペーパー自体、あらゆるクリーチャーが落としうるとは言え、スキルブックのような例外を除けば、確率的にはコンマ一パーセント未満。


 何より、そもそも異能の器たるスロットを持って生まれるのは、二千人に一人。

 そんな諸々を鑑みれば、あまりに実現性が低い、妄言じみた仮想未来。


「ハハッハァ」


 でも。だけど。


「いつだったかu-aの奴がと釘を刺してきたアレを、実行に移す時が来たぜ」


 成し得てしまうのだ。彼等三人でなら。

 震えるほど容易く。





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