495・閑話21
――夢を視た。
正しくは、夢という形で未来を視た。
私が持つ『スクルドの眼差し』は、右眼で近い未来を、左眼で遠い未来を視るスキル。
けれど私は左眼を任意で使えない。
右眼の方も、瞬膜フィルターで覆わなければ、オンオフを切り替えられない。
そういう風に分けられたから。
故、私が何週間も、何ヶ月も、何年も先の未来を識るのは、データ整理のため休眠を取る時に限られる。
そして、その大半は――あの男のこと。
「よォ。俺、気付いたんだが、社会ってクソじゃね?」
平凡を絵に描いたような昼下がり。
榊原リゼ、ヒルデガルド・アインホルンと共にファミレスで駄弁っていた彼が、前置きも無く切り出す。
「なんなの急に」
「ひっく……わかる」
片や八杯目のパフェに手を伸ばし、片や昼間から深酒。
これが世界最強クラスの一角かと思うと、CPUに負荷を覚える。
「つまらねぇ政治、つまらねぇ国家、つまらねぇ法律……ああ、反吐が出る思いだ」
「うー。ちゅきひこ、きょーは、ろしたの?」
「南極の難度十ダンジョンに行く許可が下りなくてイラついてんでしょ」
完璧な私怨。
リストラされて国会議員を憎むレベルの逆恨み。
「ふざけやがって。百年も前に締結された南極条約がナンボのモンだ。許せねぇよな、コレはよォ」
「まーまー、そーカッカしにゃいで。おしゃけ、飲む?」
「やめなさいヒルデガルド。そいつにショットグラス一杯でもアルコールを与えると大惨事なんだから」
是。酔いが醒めるまでの一昼夜を暴れ続けた挙句、送電鉄塔などの高所に引っ掛かって眠りに就くという、酒癖どうこうで語るには度が過ぎた次元。
しかも戦闘技術は微塵も衰えないどころか一部は寧ろ洗練されるため、榊原リゼ以外に抑えられる者が居ない。
「悪習断つべし、奇貨居くべし。変えねばなるまい、この浮世。時の権力者、田中角栄は生前こう述べた。戦いは数だよ兄貴、と」
それ言ったの、宇宙攻撃軍総司令官。
「――そこで俺は考えた。現代社会に対する致命打となる一手を」
「何しでかす気よ。独裁国家でも作るの?」
「はーりぇむ! はーりぇむ欲ちい!」
いよいよテロリストじみた台詞を並べ始めた。
なまじ実行力に長ける分、迂闊に冗談とも笑えない。
「題して『総人類特定危険スキルユーザー化計画』」
…………。
ああ。また始まった。
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