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無人のホールに響く歌声が、ふつと止む。
「……もういいのか?」
「あとは前日に妹達と合わせて微調整すれば問題ありません」
空間投影ディスプレイを展開させてワンフレーズの都度ゴチャゴチャ弄ってたが、ぶっちゃけ何を変えたか良く分からん。
てかそもそも、なんで俺が付き合わされたんだ。
「ところで非国民。預けた躯体の調子は如何ですか」
非国民は流石に言い過ぎ。
「無問題。棺は毎日磨いてるし、中身の手入れも完璧」
家に棲みつく連中の自発的な貢献の賜物。
「不埒な真似など働いていないでしょうね」
人をなんだと思ってやがる。
「生憎お人形遊びの趣味はねぇ」
「……あの躯体は私と同じ有機無機複合アンドロイド。処置次第で子供も産めます」
始まってるな世界。
緩やかな滅亡は近い。
「ヒルデガルド・アインホルン様のアレンジを多少受けはしましたが、容姿も概ね私と同じ」
そりゃ身長一八〇オーバーのくせ帽子はSサイズな小顔デカ女、そうそう居まいよ。
「私は彼女。彼女は私。粗雑な扱いは許しません」
「信用ゼロか」
「寧ろマイナスです」
ひでぇ。
つか。
「だったら、そも、どうして俺に託した」
フェリパ・フェレスからの手紙、及びジャッカル女史から直接の話があったのは、蘇らせるまでと、目覚めて以降の概要だけ。
モラトリアムと呼べる現状に関する説明は、何ひとつ受けていない。
……受けたかも知れんが、忘れた。
「勿論、より良い未来へ舵を切るため」
「世界平和ねぇ」
その謳い文句も改めて考えれば怪しいもんだ。
平穏なんて概念に程遠い俺を巻き込んでる時点で、な。
「十が十、残らずフカシとまでは言わんが」
恐らく何か、別の意図も混ざっているのだろう。
…………。
「ま、構わんさ。別になんでも」
フェリパ・フェレスが俺に差し出した条件、取り交わした約束さえ守ってくれれば、あとは全て些事。
そう。
斬ヶ嶺鳳慈と、戦わせてさえくれるのなら。
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