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〔お久し振りです、ボルボックス〕
ワンコールどころか、コールが鳴り始めるか否かの超絶早押しで繋がった通話。
からの開口一番ディスリスペクト。俺を貶すことに生き甲斐すら感じてそうな勢い。
誰がボルボックスだ。単細胞生物扱いとかナメやがって。
まあいい。こちとら今日は頼み事をする立場だ。
多少の罵詈雑言くらい目を瞑らねば、話せるものも話せん。
俺は理性的な男。
「よ――」
〔用件は委細承知していますよ、スジアオゴミムシ〕
喋り出しに被せて来るんじゃねぇ。ネジの一本まで分解されたいか。
「わ――」
〔厚かましいリクエストもあったものです。私達姉妹が如何程の過密スケジュールに追われているかなど、貴方は考えたことも無いんでしょうねシロスジカミキリ〕
一定のトーンで淡々と淀みなく、しかし凄まじい早口で話せるあたり、流石ロボット。
そりゃ歌の千や万、完璧以上に熟せるわな。
「な――」
〔普通なら即断るところですが、実に運の良い。そこは都合良く予定が空いています。妹達も乗り気ですし、不愉快だけれど請け負いましょうリンゴワタムシ〕
リンゴワタムシて。
「ほ――」
〔ギャラもロハで結構。貴方には借りがありますから。シェットランド・シープドッグ〕
ああ成程。しりとり形式の罵倒か。
だがシェットランド・シープドッグは流石に無理あるだろ。ロボ子のくせ語彙力不足かよ。
「ただし。無料であっても無償とは行きません。愚民」
さてはそいつが言いたくて強引に頭文字を合わせたな。
「横浜での件。妹達が折に触れ、改めて貴方に礼を述べたいと酔狂なことを申しています。
もうシンプルにしりとり。
「個人的に会えるよう、日々を無駄に生きてる貴方の無価値な時間を寄越しなさい」
言葉の選択が悪意に満ちてる。
別に良いけど。単位とか殆ど取り終わってて、どうせ暇だし。
「わ――」
「詳細部分に関しましては後ほどメールを送りますので、その通り動くよう。死ね」
受話器を叩き付けるレベルのガチャ切り。
結局、一単語すら喋らせて貰えなかった。
「……あそこまで嫌われる理由、ホント心当たり無いんだよな」
「え」
小首を傾げて呟くと、サメのクッションに抱きついてたリゼが声を上げる。
どったのセンセー。
「アンタあのロボットに嫌われてると思ってたの?」
「あァ?」
事実そうだろ。
「馬鹿ね。あれは嫌ってるんじゃなくて、嫌おうとしてるだけよ」
「……あァ?」
なんじゃそりゃ。
リゼの言うことは、たまに難しい。
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