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 ウケる。


「こんな子供騙しに今の今まで誰も気付かなかったとはな」


 呆れ半分、いっそ感心半分。

 そんな心境を抱えながら、埃っぽい石段を下る。


「……ま、盲点っちゃ盲点。よもや階段部に仕掛けがあるたァ思うまい」


 何せ前例、発見例が皆無。

 各階層を繋ぐ階段は、あらゆるダンジョンに於いて幅も長さも広さも材質も全て余さず同一規格。

 それが通説だし、俺自身つい先程まで疑いもせず、そのように考えていた。


 たかが四十年前に現れたダンジョンの枢要など、まだまだ謎だらけだと言うのに。


「地図系スキル習得者達にも最深部が見付け出せなかったのは、これがカラクリか」

「あの系統は基本的に自分が今居る階層内で効果が区切られるからね」

「一本道の階段で発動させようなんて酔狂、そう居ないでしょ。深層に来れるほどの奴なら自分のスキルくらい熟知してるし、尚更」


 俺、ヒルダ、リゼの順で述べつつ、粛々と下り続ける。


 目指す先より漂う、冷気のような熱気のような、只ならぬ空気を肌で感じながら。






「なァ。ダンジョンボスとは俺が闘って良いよな?」


 段々と近付く威圧感に胸躍らせ、横合いの二人に問う。


「好きにすれば」


 諦観じみた嘆息を添え、投げ遣り気味に頷くリゼ。

 が。ヒルダの方は、あからさまに難色を示した。


「冗談。ただでさえ最深部までの到達貢献度は殆どリゼに偏ってるんだ。この上ダンジョンボスの討伐ポイントも渡したら、何のために来たか分からない」

「ポイントなんざどーだっていいだろ」

「これっぽっちも良くないね。点を稼がなきゃDランキングは上がらないんだ」


 石剣の峰が、スカルマスクで覆われた俺の喉笛を擦る。


「ボスは僕が狩る。ツキヒコは後ろでティーブレイクしながら待っててよ」

「……ミンチになりてぇのか?」


 切っ尖を掴み押し返し、翠の瞳と間近で睨み合う。


「餓鬼が。年功序列って万国共通の社会通念を知らねェらしいな」

「日本だけだよ、それ。しかも僕、実質的には二十四歳だし」

「てかアンタ、歳上どころか他人を敬ったこと自体、一度も無いでしょうに……」


 リゼちーてばウルトラ失敬。俺だって敬意のひとつやふたつ搾り出せる。

 例えば甘木くんとか。彼は立派な好青年だぞ。

 肉親のためにスロットを擲つとか、少なくとも俺には無理。


 ――てか最早、両親あいつらの顔すら覚えてねぇ。





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