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 名だたる探索者シーカー達の侵攻を幾度と受けて尚、未だ男鹿鬼ヶ島が踏破されていない理由。

 至極単純な話。最深部である八十階層へ続く道が見付かってないからだ。


 しかも『オートマッピング』に『グルグルマップ』や『伊能忠敬』など、今や最前線以外では無用扱いを受けることも多い地図系スキルの持ち主が過去幾人と此処を訪れているにも拘らず、だ。


 そして誰も辿り着いたことが無い場所には、リゼの空間転移も届かない。

 即ち男鹿鬼ヶ島を制覇するには、まず何らかの手段で謎を解かねばならん寸法。


「そんじゃ頼むわ、ヒルダ」

「お任せあれ」






 思い描いた場所や人物へと繋がる順路を指し示すスキル『ヘンゼルの月長石』。

 対象の移動や地形の変動、遍く環境の移り変わりすらも含めた最短ルートを弾き出す、ある種、因果律に触れたチカラ。


 ただし到着までの所要時間や細かに提示される行動の理由は、本人にも分からない。

 森に捨てられた兄妹が月光を受けて輝く小石をひとつひとつ拾い上げて家まで帰り着いたように一歩一歩を踏み締め、核心に迫る異能。


「ツキヒコ、ビームお願い。六時方向」

「『破界』」


 足元に右籠手を突き立て、階層そのものからエネルギーを奪掠。

 翳した左籠手に収斂、解放。


 ほんの一瞬、奔り抜ける極光。

 射線状の全てが音すら無く、コンマ一秒足らずで無へと還る。


「あれ? それ片手で撃ってたっけ?」

「仕様が変わった」


 片方で奪い、もう片方で解き放つ。

 役割を分担させることで機構への負荷を抑え、しかも威力は据え置き。

 溜めに必要な時間も、調整前の半分以下。


「果心の奴、相変わらず良い仕事しやがる」


 三週間待たされた甲斐があったってもんだ。

 メンテの度、虐待だ処刑だと喚き散らすものの、なんやかんや故障の原因となった酷使に耐え得る形へ改良してくれるあたり、生真面目な性根と秀でた技術が窺える。


「排熱も実にスムーズ。スチームパンクみたく白煙が噴き出して強烈にカッコいい」

「腕、焼け焦げてるわよ」


 また『鉄血』使うの忘れてた。

 いいか別に。問題無く動かせるし。


「ところでヒルダ。こっちは確か上行きの階段があった方角じゃねぇのか?」

「うん。そっちに行けと、お告げが」





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