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 男鹿鬼ヶ島の五十一階層以降──即ち深層を形作るのは、岩と海で織り成された『岩島エリア』。


 足場はデコボコと不安定な上、押し寄せる波飛沫に機動力を削がれ、低温の海水は絶えず体力を奪い続ける。

 そんな環境下で屈強なクリーチャーと戦わねばならない、地味に鬱陶しい地形。


 固有のギミックは、十二時間毎に九十分ほど降り注ぐ雷雨。

 叩き付けるようなスコールが身動きと視界を封じる、これまた鬱陶しい仕掛け。






「鉄血」


 動脈に青光奔らせ、鉛色の空へ右腕を翳す。

 ほぼ同時。稲光が轟き、俺の五体を突き貫く。


「落雷を引き寄せて遊ぶのやめなさいよ」

「派手でイカすだろ」


 バチバチと体表で弾ける紫電。

 肉体硬化と併せて金属の性質を付与される『鉄血』だからこそ可能な芸当。

 面白くてついやっちまうんだよな。女隷も流石に雷程度で焦げるほどヤワじゃねぇし。


「つーか雨風と波うぜえ。ズブ濡れだ」

「私は『幽体化アストラル』ですり抜けられるから平気」

「僕も『空想イマジナリー力学ストレングス』で遮れるから平気」


 腹立つわコイツら。


〈ガァアアッ!〉


 そして豪雨に乗じてクリーチャーが襲って来た。

 鬼のくせ、やることがみみっちいんだよ。気付かれてないとでも思ったか。


「――『深度・弐』――」


 ちょうど発動中だった『鉄血』の深度を上げ、掠めただけで高層ビルも瓦礫の山と帰せしめよう金棒の一撃を受け流す。


 的外れな方へ逸れた運動エネルギーが大岩に激突。

 四方に散った衝撃波が数秒、周囲の雨を押し退ける。

 痩せても枯れても深層の怪物だけあって、結構なパワーだ。


「豪血――『深度・弐』――」


 素早く青から赤へ切り替え、両腕の樹鉄刀を擦り合わす。


「『穿式・燕貝』『針尾』」


 果心の再調整を受け、回転速度と安定性が飛躍的に増した螺旋細剣。

 腕と上半身を引き絞り、四半秒で三十三回、刺突を繰り出す。


 俺の倍近い巨躯が蜂の巣となった名も知らぬ鬼は、糸の切れた人形が如く倒れ伏した。


「アホが。土砂降りくらいで精度が落ちてちゃ、完全索敵とは謳えねーんだよ」


 十万円級の魔石、及び過去の差し替えでドロップ品ゲット。今の奴が使ってたのと同じ馬鹿デカい金棒。

 買取価格を調べたら一億円だった。深層で手に入る品は殆ど時価。七十番台階層となれば、このくらいがスタンダードだろう。


「いーなー。ツキヒコってば妙にドロップ品の引きが良いよね。確率バグってない?」

「欲しけりゃ、やる」

「え、いいの!?」


 ただし、代わりと言っちゃなんだが。


「雨が止んだら、働いて貰うぜ」





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