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「ハハッハァ。中々の威力に御座候」


 遥か遠方まで続く扇形の破壊痕を眇めながら、リゼの隣に上下逆さで着地。

 試し斬り用の木偶と考えれば、程良い硬さと強さで悪くない相手だったな。両面宿儺。


「攻撃範囲もエネルギー密度も『破界』にゃ及ばねぇし、立て続けで振り回せば剣身ごと弾けちまいそうだが……出は早い。決め手の一発には誂え向きだ」

「ねえ月彦。ヒルデガルドが風圧に巻かれて吹き飛んで行ったわよ」


 みたいですね。完全索敵領域の端に引っ掛かっておられる。

 爆ウケ。






「ああいうことするならすると、せめて事前に一声あって欲しい」

「した」

「清々しいまでの事後報告! 報連相の概念は!?」

「一昨日、煮浸しにして食っちまった」


 戻って早々、グチグチ愚図るヒルダ。

 いちいち事前申告を出せとは、役所の人間か貴様。


「甘ったれてんじゃねぇよ。リゼはキッチリ『幽体化アストラル』で凌いだぞ」

「魂の色味と揺らぎで行動を先読み出来る超能力者と一緒にしないで欲しいな!」


 超能力なら、お前も使えるだろ。サイコキネシス的なサムシング。






 糸の絞りを調節し、適当に固めた骨片の配列を正しく整える。

 併せ、籠手へ戻した樹鉄刀で肉を裂き、砕けた女隷に血を浴びせ、修復。


「……あと何十回か壊して直してを繰り返せば、ちったあマシに育ちそうだ」


 流れ出る青い血でダメージを癒やす度、少しずつ強度を高めて行く特注防具。

 緩やかなれど確かな成長曲線。なんかこう、えも言われぬワクワク感が募る。


「リジッドデニムを穿き込むマニアなんかも、今の俺と同じ気分なのかもな」

「かけ離れてると思うけど」

「寧ろ一緒くたにしたら失礼だよね。相手に」


 黙らっしゃい。






「月彦。それで、どうするの?」


 近場に居たクリーチャーをヒルダ共々、十五ずつほど仕留めた頃合、亜空間ポケットからチョコバーを取り出したリゼに問われる。


「普通に足使う? マップ見た限りだと、七十九階層まで五日くらい掛かるわよ」

「そいつぁ困るな。週末までにインテを車検に回さなきゃならん」


 それに、この近辺で狩れる輩の品定めは概ね終えた。

 強いは強いが、程度で言えば一品料理アラカルト。メインディッシュを張らせるには物足りない。


 しかも。


「あっちの方に女性型っぽいのが居るんだよな」

「ああ、多分『羅刹女』だね。ちょっと倒して来るよ」


 女性型クリーチャーは、能力の厄介さと単純な強さから、同階層帯の他種と比べても討伐ポイントが数段多い。

 ふわりと浮かび上がるや否や、初速の時点で音より速く飛び去るヒルダ。


「……レズだろうとなんだろうと、女には『魅了チャーム』が効かねぇってズルだろ」

「世の中は不公平なものでしょ」


 それもそうか。

 まあ、リゼの使う『魅了チャーム』はヒルダにも効いてたが。


 ともあれ、個体数の少なさゆえ何度も出くわす不運などそうそう無いとは言え、女性型クリーチャーが彷徨く階層で長居は無用。

 付け加えるなら、チマチマ階段を探し、ダラダラと攻略活動に勤しむ気分にも非ず。


「ヒルダが戻ったら道を繋いでくれ。七十九階層まで行っちまおう」

「りょ」





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