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「豪血――『深度・弐』――」


 二段階強化された自らの脚力に耐えかね、具足諸共に砕けた膝から下の骨をアラクネの粘糸で固めつつ踏み込む。

 地を這うように間合いを詰め、両面宿儺を水式の攻撃圏内へと捉える。


 ――樹鉄刀第九形態『水式・羽衣』。


 その外見は、差し渡し一メートル前後の鉄鞭。

 その性質は嘗ての得物、水銀刀と同じ。


 樹鉄を液状化させ、液体のまま剣の形に留めた特殊な仕様。

 打って打たれての際に受けた衝撃を余さず内へと呑み込み、波打つ剣身が元に戻ろうと動く反作用でそれを吐き出す、果心曰く中国武術の発勁から着想を得た奇剣。


 単純な頑丈さとはベクトルを異にする、柔を窮めた不壊の剣だったか。

 生憎と先代は設計限界以上の運動エネルギー蓄積でブッ壊れたが、アレとは根本的な強度が桁違いの樹鉄刀なら、その心配も無い。


〈オオオオオオオオッッ!!〉


 吼える大鬼。

 四つ腕を振り翳し、迎撃の意志を見せる。


 しかし。


「遅せぇ」


 脳裏に蘇る、那須殺生石異界の八十番台階層で渡り合ったクリーチャー達の残像。

 その物差しが、巨躯である筈の両面宿儺を小さく映す。


「ちっ」


 当然と言えば当然。クリーチャーの強さは、十の位がひとつ変われば跳ね上がる。

 例え異なるダンジョン同士であれ、七十番台と八十番台では比較対象にもならん。


「発止」


 剣、槍、斧、槌。

 それぞれの腕に携えられた四本の得物を、概ね同時に放った四撃で弾く。


 膂力自体は『深度・弐』状態の俺より上。

 技術面も、四種の武器特性に合わせて手足が如く使い分け、所作ひとつに至るまで高次元で纏めた見事なもの。


 が。シンゲンという埒外極まる力の持ち主、ハガネという神域の剣士。

 あの二人を知り、ブチのめすことを当座の目標としている俺からすれば、粘土細工に等しい。


「やっぱナマハゲの方が良かったな」


 七十番台階層に陣取るクリーチャーの大半は、七十階層フロアボスに劣る。

 そんな原則は百も承知だが、もしかしたらと淡い期待が入る分、落胆は免れない。


「今ので底は測れた。もういいよ、お前」


 剣身が歪んだ水式を腰だめに構える。

 空中跳躍で背後を取り、気が変わって正面へと戻り、懐に潜り込む。


 次いで、柄が軋むほど強く握り締め――


「――発破ァァァァアアアアアアアアッッ!!」


 衝撃排出寸前の切っ尖を、俺自身の膂力と併せ、鳩尾へ叩き込んでやった。





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